トヨタの「待ち」戦略が正解だった理由
EV革命で批判されたトヨタが、なぜ今になって正しい選択だったと評価されているのか。新型ハイランダーEV発表の背景を探る。
数年前、トヨタの幹部が「EVは時期尚早」と発言した時、業界は冷笑した。テスラが株価を押し上げ、各国政府がEV補助金をばらまく中、世界最大の自動車メーカーはハイブリッドに固執し、アメリカ市場には評判の悪いbZ4Xを1台投入するのみ。「時代遅れ」の烙印を押されていた。
しかし2026年の今、その「慎重さ」が戦略的洞察だったことが明らかになりつつある。
EV市場の現実が見えてきた
先週発表された新型ハイランダーEVは、航続距離300マイル超、車両給電機能付きの3列シートSUVだ。しかし注目すべきは車両そのものではなく、トヨタがこのタイミングで本格参入を決めた理由である。
2024年以降、世界のEV販売成長率は急激に鈍化した。フォードは電動車部門で50億ドルの損失を計上し、GMは一部EV計画を延期。ヨーロッパでは補助金削減により、EV販売が前年比で減少に転じた国も現れている。
トヨタの豊田章男会長(当時)が2021年に「EVは選択肢の一つに過ぎない」と発言した時、多くの専門家は時代錯誤と批判した。しかし充電インフラの不備、電池供給の制約、消費者の航続距離不安など、彼が指摘した課題は今でも解決されていない。
「待ち」の間に何をしていたのか
トヨタは単に傍観していたわけではない。この期間中、同社は3つの重要な投資を続けていた。
第一に、電池技術の多様化だ。リチウムイオンに加え、次世代の固体電池開発に1兆円超を投資。2027年の実用化を目指している。第二に、ハイブリッド技術の進化。プリウスの最新世代は燃費性能をさらに20%向上させた。
第三に、グローバル生産体制の最適化。他社がEV専用工場建設に追われる中、トヨタは既存ラインでの柔軟な生産を可能にするシステムを構築した。
日本企業らしい「持続可能性」の解釈
トヨタのアプローチには、日本企業特有の長期思考が反映されている。同社は「カーボンニュートラル」を「EVシフト」と同義ではないと捉えている。地域によって最適解は異なり、アフリカや東南アジアではハイブリッドの方が現実的だという立場だ。
この視点は、日本の自動車産業全体の雇用を考慮したものでもある。急激なEVシフトは、エンジン関連の550万人の雇用に影響を与える可能性がある。トヨタの段階的移行戦略は、産業エコシステム全体の持続可能性を重視している。
一方で、この慎重さが裏目に出るリスクも存在する。中国のEVメーカーは技術とコストの両面で急速に競争力を高めており、BYDは2025年にトヨタの販売台数を上回る勢いだ。
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