トランプ政権、温室効果ガス規制の根拠法を撤廃へ
EPA「危険性認定」撤廃により、米国は他の先進国と異なる道へ。自動車業界に新たな分裂市場が生まれる可能性
1兆ドルの経済効果を謳う政策変更が、実際には38兆ドルの損失を招くかもしれない。トランプ政権のEPAが今週にも実施する予定の「危険性認定」撤廃は、単なる規制緩和を超えた深刻な分水嶺となりそうだ。
17年間続いた科学的根拠が消える
リー・ゼルディンEPA長官は、2009年から続く「温室効果ガスが人間の健康と福祉に脅威をもたらす」とする危険性認定の撤廃を検討している。この認定は二酸化炭素やメタンなど6つの温室効果ガスに対する連邦規制の法的根拠となってきた。
撤廃が実現すれば、直接的には自動車の排ガス規制のみに影響するが、トランプ政権は発電所や産業施設の規制撤廃にも活用する見込みだ。興味深いことに、燃費基準の緩和を求めてきた従来の自動車メーカーですら、この危険性認定の撤廃は求めていなかった。テスラに至っては「堅固な事実と科学的記録に基づいている」として維持を要請している。
分裂する世界市場
米国が独自路線を歩めば、他の先進国との規制格差が拡大する。国境を越えてビジネスを展開する企業は、市場ごとに異なるアプローチを開発せざるを得ず、コストは確実に増加する。
特に自動車業界は厳しい選択を迫られる。米国内では規制が緩和される一方、欧州や日本では環境規制が強化され続けている。この「規制の鞭打ち現象」と中国との競争激化により、自動車メーカーは既に数百億ドルの損失を被っている。
日本のトヨタやホンダにとって、この変化は複雑な課題となる。米国市場向けには従来型エンジンの開発継続が可能になる一方、グローバル戦略としては電動化への投資を続けなければならない。
経済効果の真実
トランプ政権は政策変更により1兆ドル以上の節約効果があると主張するが、具体的根拠は示していない。一方、気候変動による経済損失は遥かに深刻だ。
議会予算局の調査では、海面上昇により1兆ドル相当の不動産が脅威にさらされ、地球温暖化が阻止されなければ米国の死亡率が2%上昇する可能性がある。2024年の研究では、気候変動により2050年までに世界のGDPが17%減少し、年間38兆ドルに相当する損失が生じると予測されている。
アメリカの化石燃料依存
米国自動車メーカーの化石燃料トラックへの依存は、短期的な利益をもたらす一方で、長期的な競争力を損なっている。中国メーカーとの競争が不可避となる中、この依存は業界を袋小路に追い込んでいる。
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