1845年の法律が現代の郵便投票を違法にする?
米共和党が最高裁に持ち込んだWatson v. RNC訴訟。19世紀の選挙法を根拠に郵便投票の無効化を求めるこの主張は、民主主義の根幹を揺るがす可能性があります。その論理と影響を読み解きます。
180年前に制定された法律が、今日の選挙で投じられた数千票を無効にできるとしたら、あなたはそれを「法の支配」と呼ぶでしょうか、それとも「法の乱用」と呼ぶでしょうか。
この問いが、今まさにアメリカの法廷で問われています。
何が起きているのか:19世紀の法律vs.現代の選挙
Watson v. Republican National Committee(ワトソン対共和党全国委員会)は、現在アメリカ連邦最高裁判所に向かいつつある訴訟です。原告である共和党(RNC)とミシシッピ州のリバタリアン党は、ミシシッピ州の郵便投票ルールが連邦法に違反すると主張しています。
問題となっているミシシッピ州の法律は、選挙日(Election Day)当日またはそれ以前に投函された郵便投票であれば、選挙日から5日以内に届いたものも有効票として数えることを認めています。共和党はこれを「違法」と訴えているのです。
その根拠として持ち出されているのが、1845年に制定された連邦法です。この法律は大統領選挙の日程を定めたもので、「11月第1月曜日の翌火曜日を選挙の日とする」と規定しています。共和党の論理はこうです。「選挙(election)は、その日に完結しなければならない。投票用紙がまだ州に届いていない段階では、選挙はまだ終わっていない。だから、選挙日を過ぎて届いた投票用紙は数えてはならない。」
しかし、ここで根本的な問題があります。1845年当時、郵便投票はほぼ存在しませんでした。 当時のアメリカでは、ほぼすべての有権者が自分の地元のコミュニティに出向いて直接投票していました。郵便投票が広く普及し始めたのは20世紀初頭のことで、その先駆けは南北戦争中に戦場から投票を認められた北軍の兵士たちでした。
言い換えれば、共和党は「存在すら想定していなかった投票方式を禁止するために、19世紀の立法者が法律を制定した」と主張していることになります。
法的論争の核心:「選挙」という言葉の意味
訴訟の争点は、「election(選挙)」という言葉の定義にあります。
1997年の最高裁判例Foster v. Loveは、「選挙」を「1869年の辞書定義」に基づいて解釈しました。その定義とは、「公職を担う人物を選ぶ行為」です。ミシシッピ州側はこの解釈を支持し、19世紀の複数の辞書を引用して同様の定義を示しています。この論理に従えば、「選挙」とは有権者が選択をする行為であり、有権者が投票用紙に記入して郵送した時点で、その有権者の「選挙への参加」は完了しています。州当局が投票用紙を受け取るのは、その後の事務的な作業に過ぎません。
共和党はこれに対し、三つの反論を展開しています。第一の反論は、「有権者の選挙」「候補者の選挙」「州の選挙」という独自の区分を設けた複雑な議論ですが、この区分は関連する法律のどこにも存在せず、法的根拠も示されていません。第二の反論は、Foster判決の「有権者と当局者の複合的な行為」という表現を根拠に、州が投票用紙を受け取るまで選挙は完結しないというものです。しかしこれも、投票用紙の印刷や候補者資格の審査など、選挙前から行われる当局の関与を無視した論理です。
最も注目すべきは第三の反論です。共和党は、2022年の最高裁判決New York State Rifle & Pistol Ass'n v. Bruenの論理を選挙法に応用することを求めています。Bruen判決は銃規制の分野で「現代の法律は、憲法制定時に類似の法律が存在しなければ違憲」という原則を確立したものです。共和党はこれを選挙法に転用し、「1845年当時に存在しなかった投票方式は認められない」と主張しているのです。
もしこの論理が認められれば、郵便投票だけでなく、仮投票(プロビジョナルバロット)、オンライン有権者登録、写真付き身分証明書の要件など、現代選挙の多くの仕組みが根本から問われることになります。
なぜ今、この訴訟が重要なのか
この訴訟の政治的背景は明確です。近年の選挙では、民主党支持者が共和党支持者よりも郵便投票を利用する割合が高い傾向があります。ドナルド・トランプ前大統領自身も、郵便投票の広範な解禁に反対する運動を展開してきました。もし共和党が最高裁で勝訴し、選挙日以降に届いた郵便投票が無効とされれば、廃棄される票の多くは民主党票になると予想されます。
下級審では、連邦控訴裁判所のアンドリュー・オールダム判事が共和党の主張を支持する判決を下しました。しかし、オールダム判事は最高裁に最も多く覆される判事の一人として知られており、最高裁は毎年2〜3件の彼の判決を破棄しています。最高裁は年間約60件しか審理しないことを考えると、これは異例の高い覆率です。
現実的には、最高裁が下級審の判決を覆す可能性は高いと見られています。最高裁には共和党系判事が6対3の多数を占めていますが、オールダム判事の判決は共和党系判事にとっても行き過ぎと判断されることが多く、過去にも繰り返し覆されてきました。
ただし、同じ最高裁が「大統領は職務上の権限行使において刑事免責を受ける」という判決を下したことも事実です。絶対的な安心はできません。
異なる視点から見る
日本の視点からこの訴訟を見ると、いくつかの興味深い対比が浮かび上がります。日本でも郵便投票(不在者投票)は存在しますが、その適用範囲は限定的で、主に身体的理由や海外在住者に限られています。日本の選挙制度は投票所での対面投票を基本とする点で、1845年のアメリカに近い部分があります。
一方、台湾や韓国など他のアジアの民主主義国家では、郵便投票や期日前投票の整備が進んでいます。選挙制度の多様化は、民主主義の成熟とともに自然に進化してきたものとも言えます。
より根本的な問いは、「古い法律の文言をどこまで拡大解釈できるか」という問題です。これは選挙法だけでなく、あらゆる法制度が直面する課題でもあります。立法者が想定していなかった技術や社会変化に、既存の法律をどう適用するか。この問いは、AIや新技術に関する法整備を急ぐ日本社会にとっても、決して他人事ではありません。
本コンテンツはAIが原文記事を基に要約・分析したものです。正確性に努めていますが、誤りがある可能性があります。原文の確認をお勧めします。
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