岩盤は崩れなかった。崩れたのは政治だった
米国のユッカマウンテン核廃棄物処分場は完成しながら一度も使われていない。民主主義が「数万年の約束」を果たせない理由を、文化人類学者の視点から読み解く。
5マイルのトンネルが、砂漠の地下に完成している。レールも敷かれた。換気ダクトも走っている。だが、核廃棄物は一グラムも運び込まれていない。
ネバダ州ユッカマウンテン。米国が40年以上の歳月と数百億ドルを費やして建設した高レベル放射性廃棄物の地層処分場は、今も「未完成」のまま砂漠の地下に眠っている。訪れた者は、古びた「米国エネルギー省・ユッカマウンテン計画」の看板と、「ユッカ・マッカー」と呼ばれる巨大なトンネル掘削機の残骸を目にする。そして、何も埋まっていない静寂を感じる。
文化人類学者でエネルギー省の元職員でもあるジョシュア・スコット・エドワーズ氏は、2023年6月にこの場所を訪れた経験をもとに、米国の核廃棄物ガバナンスの深刻な機能不全を告発する。その診断は、核政策の枠を超えて、民主主義そのものの時間感覚を問い直す。
「24,000年の半減期」と「4年の選挙サイクル」
核廃棄物の問題を理解するには、まずその時間スケールを把握する必要がある。使用済み核燃料に含まれるプルトニウム239の半減期は24,000年以上。ウラン235に至っては7億年以上だ。この物質を安全に隔離するためには、人類の文明史をはるかに超える時間軸での管理が求められる。
一方、米国の政治サイクルは4年ごとにリセットされる。
この根本的なズレが、ユッカマウンテンの悲劇を生んだ。1987年、議会は「核廃棄物政策法」を改正し、処分場の候補地をネバダ州ユッカマウンテン一か所に絞り込んだ。地元では「ネバダいじめ法案(Screw Nevada Bill)」と呼ばれたこの決定は、地域住民、州政府、先住民族の信頼を最初から損なっていた。
2002年にブッシュ政権が計画を承認したが、その後の展開は「政策のジェットコースター」とも言うべきものだった。2009年、オバマ政権はネバダ州選出の上院院内総務ハリー・リード議員の圧力を受けて資金を凍結。2012年に「青いリボン委員会」が同意ベースの新たなアプローチを提言。2016年に「同意ベースの立地プログラム」が始動したが、2017年のトランプ政権発足で棚上げ。2021年にバイデン政権が復活させたが、規模を縮小。そして2025年の第二次トランプ政権は「協力ベースの立地」という新たな名称を掲げ、「核ライフサイクル革新キャンパス」構想を打ち出した。
名称は変わり、担当者は交代し、予算は増減を繰り返す。しかし廃棄物は増え続ける。現在、使用済み核燃料は39州・100か所以上の施設に分散して保管されており、その総量は約95,000メートルトンに達する。年間約2,000メートルトンが新たに加わっている。
「$244億ドルの皮肉」と制度的麻痺
法的な矛盾も深刻だ。現行の「核廃棄物政策法」は、ユッカマウンテン以外での処分場建設を事実上禁じている。さらに、中間貯蔵施設の建設も、処分場のライセンスが交付されるまでは認められていない。ユッカマウンテンが機能不全に陥った今、エネルギー省はどちらの施設も建設できないという法的な袋小路に入り込んでいる。
それでも政府は2021年から2023年にかけて、2,400万ドルを投じて「同意ベースの立地コンソーシアム」を組織し、全国12のプロジェクトチームが市民との対話を進めた。信仰団体、労働組合、学校区、図書館、先住民族——あらゆる場所で「もし核廃棄物施設が地元に来たら」という会話が行われた。スペイン語プログラムも設けられ、託児サービスや食事、謝礼まで用意された。
だが、エドワーズ氏は冷静に指摘する。「コンソーシアムは住民が聞き、地図を描き、熟議し、計画を立てるのを助けることはできた。しかし、議論している施設が実際に建設されるという保証は、法律上、一切できなかった」。
財政的なインセンティブも問題を複雑にしている。1982年の法律により、エネルギー省は1998年1月末までに使用済み燃料の処分を開始する義務を負っていた。履行できなかった政府に対し、電力会社は訴訟を起こし、納税者が費用を負担する形での補償が続いている。これまでの支払い総額は120億ドル以上。将来の推定負債は386億〜443億ドルに上る。
逆説的だが、この補償制度が処分場建設を急ぐインセンティブを弱めている側面がある。処分場が完成すれば、使用済み燃料を全国の鉄道・道路・水路で輸送する問題が再燃する。現状の「低視認性の分散保管」の方が、関係者にとって「扱いやすい」という現実がある。
フィンランドが示す「別の時間感覚」
ユッカマウンテンの失敗を相対化するために、フィンランドの事例は示唆に富む。
フィンランドのオンカロ処分場は、世界初の使用済み核燃料地層処分場として、規制当局の承認を待つ段階にある。この成功の鍵は、1980年代から続く段階的・自発的なプロセスにあった。各段階でコミュニティには「拒否権」が与えられ、受け入れた自治体エウラヨキでは、核関連施設が固定資産税収の約90%、総税収の約3分の1を占めるほどの財政的統合が実現した。
カナダ、スウェーデンも同様に、独立した専門機関が政権交代の影響を受けずに数十年にわたる対話を積み重ねてきた。
米国でも、「核廃棄物管理専門機関」の設立を求める声は15年以上にわたって上がっている。2024年には「核廃棄物管理法案」が下院に提出されたが、委員会を通過することなく第118議会の終了とともに廃案となった。
日本にとっての「他人事ではない」理由
この問題は、日本にとって決して遠い話ではない。
日本も高レベル放射性廃棄物の最終処分場を持たず、北海道の寿都町と神恵内村が2020年に文献調査を受け入れたものの、最終処分場の実現には数十年の道のりが残されている。東京電力福島第一原発の処理水問題が示すように、核廃棄物をめぐる意思決定は科学的合理性だけでは動かない。地域の信頼、世代をまたぐ約束、そして政治的継続性——これらすべてが必要だ。
原子力発電を「脱炭素の柱」として再評価する動きが日本でも加速している。能登半島地震後の安全性議論も続く中、「核のごみをどこに持っていくのか」という問いへの答えなしに、原子力の将来を語ることはできない。
2025年、米国ではDOGE(政府効率化局)の改革により、エネルギー省の核廃棄物技術審査委員会のメンバーがほぼ全員解任された。独立した技術監視機能が失われた。核規制委員会(NRC)の委員も政治的圧力を受けて解任され、規制の独立性への懸念が高まっている。
エドワーズ氏の言葉は重い。「岩盤は崩れなかった。崩れたのは政治だった」。
本コンテンツはAIが原文記事を基に要約・分析したものです。正確性に努めていますが、誤りがある可能性があります。原文の確認をお勧めします。
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