「食料」という名の地雷:ホルムズ海峡封鎖が世界を揺るがす
イラン戦争によりホルムズ海峡の船舶通過量が90%減少。湾岸諸国の食料輸入の70%が途絶え、肥料輸出停滞で日本の農業・食卓にも影響が及ぶ可能性を多角的に分析。
石油の話ばかりしている間に、私たちは食料危機の入口に立っているのかもしれない。
2026年2月末、米国とイスラエルがイランを攻撃して以降、ホルムズ海峡を通過する船舶は90%以上減少した。3月12日、海運分析会社ロイズ・リスト・インテリジェンスは、戦争開始以来初めて同海峡の通過船舶数がゼロを記録したと報告した。幅わずか約32キロのこの水路が事実上閉鎖されたことで、世界のエネルギー地図が揺れているのは周知の事実だ。しかし、より静かに、しかし確実に進行しているもう一つの危機がある——それは、食料だ。
砂漠の上の摩天楼が抱える脆弱性
ドバイやドーハを訪れたことがある人なら、湾岸諸国が数十年かけて築き上げた繁栄の姿を知っているだろう。石油収入を原動力に、世界中から労働者と投資を引き寄せ、過去30年でこの地域の人口は約6000万人と倍増した。しかしその輝かしい近代化は、一つの根本的な弱点の上に成り立っていた。灼熱の砂漠では、農業がほとんど育たない。
世界経済フォーラムの調査によれば、湾岸協力会議(GCC)——サウジアラビア、オマーン、アラブ首長国連邦、カタール、クウェート、バーレーンの6カ国——が消費する食料の約85%は輸入に依存している。米国の輸入依存率が約15%であることと比較すれば、その差は歴然だ。コメに至ってはほぼ100%、穀物類でも90%を輸入に頼る。そして、それら食料輸入の約70%がホルムズ海峡を経由している。
UAE政府は戦略備蓄が4〜6カ月分あると発表し、不当な価格吊り上げを通報するための専用ホットラインを設置した。サウジアラビアは1月に国家穀物機関が約100万メトリックトンの小麦を購入し、約4カ月分の備蓄を確保している。各国政府は代替輸送ルートの開拓にも奔走しているが、紅海でもイランとその代理勢力が米国船舶を標的にすると脅しており、選択肢は限られている。
水の問題も深刻だ。3月8日、バーレーンの内務省はイランのドローン攻撃が海水淡水化プラントを損傷したと報告。クウェートでも迎撃されたドローンの破片が発電・給水施設の燃料タンクに命中した。湾岸諸国の多くは飲料水の大半をこれら淡水化プラントに依存しており、食料と水の同時危機という最悪のシナリオが現実味を帯びている。
「肥料」という名の連鎖——日本の食卓への波紋
ここで重要な問いが生まれる。これは中東だけの問題なのか?
そうではない。湾岸地域は世界の肥料生産における要衝でもある。この地域は世界の尿素(窒素系肥料の主原料)の約半分を供給し、アンモニア、硫黄、リン酸塩の主要生産地でもある。ホルムズ海峡の事実上の閉鎖により、これらの肥料原料の輸出が滞り、一部の肥料成分の国際価格はすでに約25%上昇している。
外交問題評議会のシニアフェロー、マイケル・ワーツ氏はこう警告する。「私たちは食料危機に向かっているのに、みんなガソリン価格の話しかしていない」。
日本にとってこれは対岸の火事ではない。日本の農業は輸入肥料への依存度が高く、特に尿素や塩化カリウムの調達は中東・中央アジアに大きく依存している。すでに資材費の高騰に苦しむ国内農家にとって、肥料価格のさらなる上昇は経営を直撃する。春の作付けシーズンが本格化する3〜4月は肥料需要のピークでもあり、供給不安が長引けばその影響は今年の収穫量にも及びかねない。
2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻を思い起こしてほしい。小麦輸出の少なくとも30%を担っていた両国の港が封鎖され、黒海には機雷が漂い、世界の小麦価格は翌月に史上最高値を記録した。あの時と同じ構造が、今度は肥料と食料輸送の両面で同時に起きている。
長期戦略の限界と、「それでも船を待つ」現実
湾岸諸国が無策だったわけではない。各国は大型穀物サイロを建設し、水耕栽培、垂直農業、気候制御型温室など先端農業技術に投資してきた。外気温が日常的に44度を超える環境で野菜を育てるために。UAEとサウジアラビアの政府系ファンドは、東欧の小麦農地、南米の畜産、南アジアの米農地に至るまで、海外で農地や農業企業の持分を積極的に取得してきた。
しかしそれもまた、安全な海上輸送を前提としている。農地を所有していても、船が動かなければ食料は届かない。数十年にわたる先見的な投資が、たった一つの海峡の封鎖で試されている。
歴史は繰り返す。2010〜11年の「アラブの春」では、気候変動による主要産地の不作がロシアの小麦輸出禁止を招き、世界の小麦価格が約50%急騰した。世界最大の小麦輸入国であるエジプトでパン補助金制度が限界に達し、チュニジアとエジプトの政権が崩壊した。食料価格は、社会の安定装置を壊す力を持っている。
戦略国際問題研究所(CSIS)のケイトリン・ウェルシュ氏はこう指摘する。「危機が起きると、各国は食料自給を目指して内向きになろうとする。しかし実際には、国内消費に必要な食料を自国で賄える国は世界でもごくわずかだ」。
記者
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