CZの「無関係」発言が問いかけるもの
Binance創業者チャンポン・ジャオ氏がイラン取引疑惑を否定。暗号資産規制の信頼性と、日本の投資家・金融機関が直面するコンプライアンスリスクを多角的に分析します。
世界最大の暗号資産取引所が、テロ資金供与の「通路」だったとしたら——その疑惑を、創業者自身はどう否定するのでしょうか。
CZが語った「ゼロの関心」
2026年3月18日、ワシントンで開催されたDigital Chamber主催の「DC Blockchain Summit」に、Binance創業者チャンポン・ジャオ(通称CZ)氏がビデオ出演しました。その場で彼が否定したのは、Binanceがイランとの取引を仲介し、テロ資金供与に関与したという一連の疑惑です。
「私はそれに関わることにゼロの関心しかない」とCZ氏は述べました。さらに、「私はイランから攻撃を受けている国(アラブ首長国連邦)に住んでいる。それ以前から、そもそも関心がなかった」と続けました。
CZ氏が否定しなければならなかった背景には、具体的な報道があります。ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)は、Binanceがコンプライアンス担当者を解雇したと報じました。その担当者たちは、制裁違反の可能性がある疑わしい取引を内部で指摘していたとされています。さらに、内部調査では中国人顧客から10億ドル超の暗号資産が、イランの資金調達ネットワークに関連するウォレットへ送金されたと指摘されていたとも伝えられています。
Binance側はWSJを名誉毀損で提訴しており、「プラットフォーム上のアカウントがイランの主体と直接取引した証拠は見つかっていない」と主張しています。
「無実の主張」の背景にある複雑な事実
CZ氏の発言を単純に信じることも、単純に否定することも難しい構造があります。
まず、CZ氏自身の立場を整理する必要があります。彼は2023年、米国当局とのマネーロンダリング・制裁違反に関する刑事和解の一環として、CEOを辞任しました。その後、服役を経て、トランプ大統領から恩赦を受けたという経緯があります。現在は回顧録の出版を準備中とのことです。
次に、CZ氏が反論の根拠として挙げた点も注目に値します。彼は「イラン関連の取引は手数料を生まないため、Binanceにとってビジネス上の利益がない」と述べました。これは一見合理的な論理ですが、規制当局の視点からすれば、「意図的な関与がなくても、プラットフォームの設計上の欠陥が制裁回避を可能にしていた」という問題は別次元の話です。
また、米国の裁判所でテロ資金供与に関する民事訴訟が2件棄却されたことをCZ氏は引用しましたが、民事訴訟の棄却は刑事責任や規制上の問題の不存在を意味するわけではありません。
日本の投資家・金融機関にとっての意味
この問題は、遠い国の話ではありません。
金融庁(FSA)は、暗号資産交換業者に対して厳格なAML(マネーロンダリング対策)・CFT(テロ資金供与対策)の義務を課しています。日本の暗号資産取引所が海外の大手プラットフォームとの接続や資産移転を行う際、そのカウンターパーティのコンプライアンス水準は、日本側の法的リスクにも直結します。
個人投資家にとっても、利用するプラットフォームの規制リスクは無縁ではありません。制裁違反や資金洗浄疑惑が浮上した取引所では、資産凍結・サービス停止・当局調査による出金制限といった事態が過去にも起きています。「大きいから安全」という前提は、暗号資産の世界では通用しません。
さらに、米国上院の調査委員会へのBinanceの対応、SECによる暗号資産の証券定義の初めての明確化(同日報道)、クラッケンのIPO凍結など、2026年3月は暗号資産規制の地殻変動が同時多発的に起きている時期です。この文脈の中でBinanceのイラン疑惑報道が出てきた意味は、小さくありません。
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