「グレーゾーン」が「建設ゾーン」に——NASDAQが語る規制転換の意味
NASDAQ社長タル・コーエン氏がConsensus Miami 2026で語った、SEC規制姿勢の変化とトークン化・AI投資の加速。日本の金融市場インフラへの示唆を読み解く。
4年前、それは「飛行禁止区域」だった。
2026年5月7日、フロリダ州マイアミで開催されたConsensus Miami 2026のステージに立ったNASDAQ社長タル・コーエン氏は、そう言い切りました。ブロックチェーンやトークン化資産をめぐる規制の「グレーゾーン」は、かつて企業が近づくことすら許されない領域でした。しかし今、その同じグレーゾーンは「建設できる場所」へと変わったと言うのです。
「グレーゾーンの意味が変わった。今は、スケールを追求できる。ブラッシュバック(規制当局からの反発)を恐れずに実験できる」——コーエン氏のこの言葉は、単なる楽観論ではありません。世界130以上の市場に取引技術を提供するNASDAQが、ブロックチェーンインフラ・トークン化・人工知能への投資を公式に加速させると宣言したことの重さを、金融市場は静かに受け止めています。
SECの「姿勢転換」が意味するもの
コーエン氏が強調したのは、米国証券取引委員会(SEC)の変化です。「SECはずっと建設的になっている。オープンマインドというレベルではない。プロアクティブ(積極的)なのだ」と彼は言いました。
この変化の背景には、2025年以降のSECの規制スタンスの明確な転換があります。前政権期に相次いだ暗号資産企業への執行措置が後退し、業界との対話姿勢が前面に出るようになりました。ホワイトハウスのデジタル資産顧問パトリック・ウィット氏も同じConsensusの場で、「戦略的ビットコイン準備」に関する発表が「数週間以内」に来ると述べており、政策の方向性は一貫しています。
NASDAQが具体的に投資を進めているのは、主に三つの領域です。第一に「常時稼働(Always On)」の市場インフラ——従来の取引時間の壁を超え、24時間365日、証券・資金・担保を動かせるシステムです。第二にトークン化——資産をブロックチェーン上に乗せることで、移動・担保化・取引を容易にし、発行体が株主をリアルタイムで把握できるようにする仕組みです。第三にAI——コーエン氏によれば、NASDAQはすでに自社のマッチングエンジンのデジタルレプリカ上でAIによる取引シミュレーションをテストしており、市場ストレスシナリオの検証や延長取引時間への対応に活用しようとしています。
「相互運用性」という最大の壁
しかし、コーエン氏は楽観論一色ではありませんでした。彼が「業界最大のハードル」と呼んだのが、レガシーシステムとデジタル資産システムの相互運用性(インターオペラビリティ)です。
「伝統的な証券のインフラと、トークン化資産のインフラを別々に動かしたい企業はない」——この言葉は、実務の核心をついています。現実の金融機関は、既存の決済・清算・保管システムを一夜にして置き換えることはできません。NASDAQが目指すのは、両者を橋渡しする「コンバージェンス(収束)」であり、「どちらの世界にいても、両方のメリットをまとめて提供する」というポジショニングです。
これは、日本の金融市場にとっても他人事ではありません。東京証券取引所を運営する日本取引所グループ(JPX)は、2023年からブロックチェーンを活用した決済実証実験を進めてきました。しかし、国内の規制環境と既存インフラの重さが、実装のスピードを制約しています。NASDAQが「相互運用性」を最大課題と認めたことは、JPXをはじめとする日本の市場インフラ事業者にとって、自分たちが直面している問題が世界共通であることを示す一方、解決の先頭を走る者が市場標準を握るという競争の現実も突きつけています。
日本市場への示唆——「常時稼働」は何を変えるか
NASDAQが描く「常時稼働市場」の世界は、日本の投資家や金融機関にとって具体的な影響をもたらします。
まず、個人投資家の視点から。現在、日本の個人投資家が米国株を取引する場合、時差と取引時間の制約が常につきまといます。米国市場が24時間化・トークン化されれば、日本時間の昼間に米国株を取引する障壁は大きく下がります。SBI証券や楽天証券といった国内ネット証券がこの流れにどう対応するかは、今後の競争軸になり得ます。
次に、機関投資家・信託銀行の視点から。トークン化された証券が担保として即時移動できるようになれば、資金効率は向上します。しかし同時に、カストディ(資産保管)業務の再定義を迫られます。三菱UFJ信託銀行や野村信託銀行は、デジタル資産の保管・管理に関する体制整備を急いでいますが、グローバルな標準化の速度に追いつけるかどうかが問われます。
そして規制当局の視点から。金融庁は暗号資産・デジタル証券に関する規制整備を継続していますが、SECの「プロアクティブ」な姿勢との対比は避けられません。日本が「様子見」を続ける間に、米国・欧州・シンガポールが市場インフラの標準を確立してしまうリスクは、政策立案者が直視すべき問いです。
本コンテンツはAIが原文記事を基に要約・分析したものです。正確性に努めていますが、誤りがある可能性があります。原文の確認をお勧めします。
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