オリンピックが暴いた欧州決済システムの「穴」
ビザのオリンピック独占契約が浮き彫りにした欧州決済システムの構造的問題。日本企業にとって何を意味するのか?
2024年パリオリンピックで、観客は奇妙な光景を目にした。会場内ではビザカードしか使えないのに、街中ではマスターカードや地元の決済システムが主流だったのだ。
この「決済の分裂」は、単なる不便さを超えて、欧州が抱える深刻な構造問題を象徴している。
オリンピックという「実験場」
国際オリンピック委員会(IOC)とビザの独占契約は1986年から続いている。パリ大会では、1500万人の観客が会場内でビザ以外のカードを使えない状況に直面した。
問題は技術的な話ではない。欧州各国は独自の決済エコシステムを構築してきたが、それらが国境を越えて連携できていないのだ。ドイツのジロカード、オランダのiDEAL、フランスのカルト・ブルー—これらは自国では強力だが、隣国では使えない。
欧州中央銀行の調査によると、欧州の決済市場は28の異なるシステムに分裂している。統一通貨ユーロを持ちながら、決済システムは統一されていない矛盾だ。
日本企業が直面する現実
ソニーや任天堂など、欧州で事業を展開する日本企業にとって、この分裂は実務上の大きな負担となっている。
ソニーのヨーロッパ法人は、18カ国で異なる決済システムに対応するため、各国ごとに決済パートナーを確保している。開発コストは統一システムの3倍に膨らんでいるという。
楽天が欧州進出を断念した理由の一つも、この決済システムの複雑さだった。同社幹部は「アメリカや中国より参入コストが高い」と証言している。
規制当局の板挟み
欧州の規制当局は矛盾した立場に置かれている。一方でアメリカ系決済企業の寡占を警戒し、他方で域内統合を進めたいと考えている。
2021年、欧州委員会は「デジタル単一市場戦略」を発表したが、決済システムの統合は遅々として進んでいない。各国の既得権益と、プライバシー保護への懸念が足かせとなっている。
ドイツ連邦銀行の試算では、決済システムが統一されれば、域内の取引コストを年間240億ユーロ削減できるという。しかし、統一への道のりは険しい。
中国の影響力拡大
興味深いことに、この欧州の「決済空白」に中国系企業が食い込んでいる。アリペイとウィーチャットペイは、中国人観光客向けサービスから始めて、徐々に欧州市場に浸透している。
パリオリンピック期間中、アリペイは会場外の5000店舗で利用可能だった。ビザの独占が続く限り、こうした「抜け道」が拡大する可能性がある。
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