大陪審が検察を拒否する時代:トランプ政権下で起きる「異例」の連鎖
連邦大陪審がトランプ政権の検察官による起訴要求を相次いで拒否。司法制度の信頼性と権力の乱用について考える。
6人の民主党議員が軍と情報機関に「違法な命令に従う必要はない」と呼びかけた動画。これに激怒したトランプ大統領が「反逆罪は死刑に値する」と発言。そして連邦検察官が起訴を試みるも、大陪審がこれを拒否――。
2026年2月10日、ワシントンの連邦大陪審が見せた判断は、アメリカの司法制度に新たな問いを投げかけている。
「ハムサンドイッチでも起訴できる」はずだった
大陪審制度は憲法修正第5条に明記された、検察官の起訴を審査する仕組みだ。通常、16人から23人の一般市民が検察官の提示する証拠を検討し、犯罪の可能性があるかを判断する。
元連邦判事のジョン・E・ジョーンズ3世氏によれば、この過程は極めて一方的だ。弁護人は同席せず、検察官が選んだ証拠のみが提示される。被告側の反論もない。だからこそニューヨーク州の判事ソル・ワクトラーは「大陪審はハムサンドイッチでも起訴できる」と皮肉ったのだ。
しかし今回、その「ゴム印」が機能しなかった。6件すべてで大陪審は起訴を拒否したのである。
検察への不信が生んだ「異例」
ジョーンズ氏は約20年間の連邦判事在任中、大陪審が起訴を拒否した例を「一度も記憶にない」と証言する。それほど今回の事態は異例だった。
大陪審が起訴を拒否するということは、検察官が提示した事実を受け入れても「この状況では連邦起訴に値しない」と判断したことを意味する。つまり、事実の問題ではなく、起訴の妥当性そのものへの疑問だ。
背景にあるのは、トランプ政権下で失われた司法省への信頼だ。ジョーンズ氏は「連邦判事たちが検察官の言葉を信じなくなった」と指摘する。過去に法廷で明らかな虚偽が述べられたことで、司法省の信頼性は地に落ちた。
権力の武器化がもたらすもの
特に問題視されるのは、大統領自身が議員らを「反逆行為」と断定し、死刑に値すると発言したことだ。これは適正手続きの概念を根本から破壊する行為である。
起訴されれば、たとえ無罪でも被告は弁護士費用や時間、そして評判を失う。「手続き自体が処罰」となるのだ。これこそが大統領の狙いかもしれない――政敵を苦しめること自体が目的なのではないか。
日本の司法制度と比較すると、アメリカの大陪審制度は市民参加の色彩が強い。しかし今回の事態は、市民レベルでの司法への不信を浮き彫りにした。権力者による司法の政治利用に対し、一般市民が「ノー」を突きつけた格好だ。
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