郵便投票を「違法」にしようとする訴訟が最高裁へ
共和党が1845年制定の連邦法を根拠に、選挙日後に届いた郵便投票を無効にしようとする訴訟「Watson v. RNC」。米最高裁の審理が示す、選挙制度と司法の政治化という深刻な問題を読み解きます。
180年間、誰も気づかなかった「違法行為」が、突然問題になった。
2026年3月、アメリカ連邦最高裁判所の法廷で、ある奇妙な主張が真剣に審理されていました。共和党(RNC)が提起した Watson v. Republican National Committee 訴訟の骨子はこうです。「1845年に議会が制定した連邦選挙日法は、選挙日以降に届いた郵便投票を州が集計することを禁じている」——。
しかし、その「禁止」に誰も気づかないまま、南北戦争から現代まで約180年が過ぎました。
訴訟の背景:郵便投票はなぜ「戦場」になったのか
もともと、郵便投票(アブセンティー投票)は超党派で受け入れられてきた制度でした。赤い州(共和党優勢州)でさえ、利便性の向上を理由に郵便投票を拡大してきた歴史があります。ところが、ドナルド・トランプ 前大統領が2020年選挙の前後から「郵便投票は不正の温床だ」と繰り返し主張したことで、状況は一変しました。
その結果、現在では民主党支持者が郵便投票を利用する割合が共和党支持者を大幅に上回っています。つまり、郵便投票を無効にすれば、民主党票が消える——という構図が生まれたのです。
今回の訴訟の舞台は、共和党が圧倒的に強いミシシッピ州です。同州の法律では、選挙日までに投函された郵便投票は、選挙日から5営業日後に届いても有効とされています。共和党とミシシッピ州自由党は、これが連邦法違反だと主張しています。
法的根拠として持ち出されたのが、下院選挙を規定する連邦法の一節です。「選挙の日(the day for the election)」という文言を、共和党は「投票の投函から集計まで、すべてがその日に完結しなければならない」と解釈しています。
しかし、法学的にはこの解釈は非常に無理があります。1845年当時、郵便投票という制度はほぼ存在していませんでした。南北戦争中、ロードアイランド州やネバダ州では、戦場の兵士が投票用紙を上官に手渡し、上官が連邦選挙日より後に郵送するという慣行がありました。ソニア・ソトマイヨール 判事は口頭弁論でこの史実を指摘し、共和党の解釈を真っ向から否定しました。
ミシシッピ州の準備書面によれば、現在「約30州とワシントンDC」が、選挙日までに投函された郵便投票を選挙日後に受け取っても有効とする法律を持っています。
最高裁の内部:5対4の綱引き
口頭弁論を傍聴した記者たちの報告によれば、最高裁の9人の判事は明確に分かれています。
共和党寄りの4判事——クラレンス・トーマス、サミュエル・アリート、ニール・ゴーサッチ、ブレット・カバノー——は、共和党の主張に同調する姿勢を見せました。アリート 判事は「米国郵便公社(USPS)は州機関ではない。なぜ州以外の機関が投票用紙を保管できるのか」と問い、ゴーサッチ 判事は「選挙翌日に醜聞が発覚した場合、有権者が郵便局に投票用紙の回収を求めることができるのか」という仮定的な問いを持ち出しました。
一方、ジョン・ロバーツ 長官と エイミー・コニー・バレット 判事は懐疑的な姿勢を示しました。ロバーツ長官は「共和党の解釈が正しければ、選挙日前の期日前投票も違法になるのではないか」と指摘。バレット判事は「19世紀に郵便投票が少なかったのは、それが政策的に適切だと考えられていたからであり、連邦法が禁止していたからではない」と述べました。
現時点での予測では、民主党系3判事が共和党穏健派のロバーツ、バレット両判事を引き留めることができれば、5対4で共和党の主張は退けられる可能性が高いとされています。ただし、この結果は保証されていません。
なぜ今、これが重要なのか
この訴訟が示しているのは、単なる選挙手続きの技術論ではありません。司法の政治化 という、より深い問題です。
法律の文言が変わっていないにもかかわらず、政治的な文脈が変わることで「解釈」が変わる——これは、法の支配(Rule of Law)の根幹を揺るがす現象です。日本でも、最高裁判所の判事任命が政治的な議論になることがありますが、アメリカではその傾向がより顕著です。共和党が任命した判事が共和党の訴訟を支持し、民主党が任命した判事がそれに反対する構図は、司法への信頼を損なうリスクをはらんでいます。
また、この訴訟の結果は日本にとっても無関係ではありません。アメリカの政治的安定は、日米同盟の基盤であり、アジア太平洋地域の安全保障秩序に直結します。選挙制度の信頼性が揺らぐことで、アメリカの民主主義そのものの正当性が問われる事態になれば、その影響は同盟国にも波及します。
さらに、トヨタ や ソニー などの日本企業にとっても、アメリカの政治的不安定は市場リスクとして現れます。規制環境の予測可能性が下がれば、長期投資の判断が難しくなるからです。
本コンテンツはAIが原文記事を基に要約・分析したものです。正確性に努めていますが、誤りがある可能性があります。原文の確認をお勧めします。
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