ホルムズ海峡封鎖が映し出す「エネルギー安全保障」という幻想
イラン戦争によるホルムズ海峡封鎖で石油価格が急騰。米国の「エネルギー自給」論の限界と、グローバル市場の現実を探る。
世界の石油の5分の1が通過するホルムズ海峡が封鎖された今、数百隻のタンカーが海峡入口で立ち往生している。しかし石油価格の上昇は20%程度にとどまっている。市場は「アメリカが必ず事態を収拾する」と信じているからだ。
この楽観論は正しいのだろうか。
「エネルギー自給」の神話
トランプ政権は「アメリカはもはやホルムズ海峡の石油に依存していない」と主張している。ダグ・バーガム内務長官は昨年、「我々はもうホルムズ海峡から石油を得ていない」と述べ、イランへの攻撃を正当化した。
シェール革命により、確かにアメリカは石油の純輸出国となった。しかし現実はより複雑だ。多くのアメリカの製油所は、中東産の重質原油を処理するよう設計されている。一方、アメリカが産出するのは軽質原油が中心だ。
その結果、アメリカは自国の軽質原油を輸出し、重質原油や精製済みガソリンを輸入している。「アメリカのガソリン価格は、供給源がどこであろうと世界の石油価格を反映する」と、進歩研究所のエネルギーアナリスト、アーナブ・ダッタ氏は指摘する。
石油トレーダーの悪夢が現実に
「これは石油トレーダーを夜も眠らせない悪夢だ」。コモディティ・コンテクスト誌のアナリスト、ローリー・ジョンストン氏はそう語る。ホルムズ海峡の封鎖は「あらゆるテールリスクの母」だという。
専門家によると、封鎖が数週間続けば石油価格は2倍から3倍に跳ね上がる可能性がある。現在1バレル80ドルの原油が200ドルに達すれば、ガソリン価格は1ガロン6ドル(現在は3.25ドル)になる計算だ。
トランプ大統領は火曜日、「必要であれば」米海軍がタンカーを護衛すると発表した。しかし世界最大の海運業界団体の安全保安責任者は、海峡を通過するすべてのタンカーを海軍が保護するのは「非現実的」だと述べている。
イランの二重戦略
イランは海峡封鎖だけでなく、エネルギー生産施設への直接攻撃も行っている。サウジアラビア最大の製油所とカタール最大の天然ガス施設を攻撃し、両施設とも一時的に生産を停止した。
特にカタール施設の被害は深刻だ。ここだけで世界の液化天然ガスの5分の1以上を供給しており、ヨーロッパの天然ガス価格は40%急騰した。
「海峡封鎖は庭のホースの詰まりのようなもので、いつでも解消できる。しかし生産施設への攻撃は、ホースが繋がっている蛇口を壊すようなもの。修復はずっと困難だ」とジョンストン氏は説明する。
日本への波及効果
日本は石油の99%を輸入に依存し、中東からの輸入が大きな割合を占める。ホルムズ海峡封鎖の長期化は、日本経済に深刻な影響を与える可能性が高い。
トヨタやホンダなどの自動車メーカーは、すでに原材料コストの上昇に直面している。エネルギー価格のさらなる上昇は、製造業全体の競争力を脅かしかねない。
一方で、この危機は日本の再生可能エネルギー政策を加速させる契機にもなり得る。エネルギー安全保障の観点から、太陽光や風力発電への投資が急速に拡大する可能性がある。
記者
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