エヌビディア、中国を消しても過去最高の売上高 — 盾であり足かせでもある輸出規制
米国のAIチップ輸出規制は2026年上半期、緩和(1月)・迂回封鎖(5月)・審議中の法案という三つの層に分かれた。エヌビディアは中国を業績見通しから外しながら、四半期売上816億ドル(約12兆円)の過去最高を記録した。盾でもあり足かせでもある輸出政策を読み解く。
エヌビディア、中国を消しても過去最高の売上高 — 盾であり足かせでもある輸出規制
エヌビディアは5月の決算発表で、中国のデータセンター向けコンピュート売上を今後の業績見通しから丸ごと外しました。ところが同じ席で、会社は四半期売上816億ドル(約12兆円)、データセンター部門752億ドル(約11兆円)という過去最高の成績を示しています。データセンター売上は前年同期比で92%も伸びました(エヌビディア2027会計年度第1四半期決算、2026年5月20日)。
この二つの数字は、一見すると矛盾して見えます。世界最大の市場のひとつを会計上ゼロとして処理しながら、同時に過去最高の売上を記録しているのです。鍵を握るのは、米国による先端AIアクセラレータ(AI計算を専門にこなす半導体)の輸出規制です。この規制の骨格は米商務省産業安全保障局(BIS)の規則と官報(Federal Register)にあり、その余波はエヌビディアが米証券取引委員会(SEC)に提出した開示書類に刻まれています。本シリーズ「半導体主権戦争」が前回取り上げたCUDAというソフトウェアの堀が市場の築いた第一の防衛線だとすれば、ワシントンが引いた輸出規制は国家が築いた第二の層にあたります。そしてこの防衛線は、エヌビディアを守ると同時に閉じ込めてもいるのです。
三方向に分かれた規制
輸出規制は2026年に入って一方的に強まった、という受け止め方がよく聞かれます。ただ、実際の構図はもっと複雑です。2026年上半期だけでも、互いに反対方向へ引っ張る三つの力が同時に動いていました。
一つ目は緩和です。BISは1月13日に規則を発表し、15日に官報へ掲載して即日発効させました(文書番号2026-00789)。この規則は、H200クラスのチップの対中輸出を「拒否推定(presumption of denial、原則不許可)」から「個別審査(case-by-case)」へと切り替えました。対象になるのは、総処理性能(TPP、チップの演算能力を示す指標)が2万1000未満で、かつメモリ帯域幅の合計が毎秒6500ギガバイト未満のチップです。エヌビディアのH200、AMDのMI325Xがこれに当てはまります。ただし、緩和といっても扉が大きく開いたわけではありません。輸出する側は、半導体の製造委託(ファウンドリ)能力を米国の顧客から引き剥がさないこと、対中出荷量を米国顧客向けの50%以下に抑えること、さらに米国内の独立した試験所による事前検査を通すことを求められます。これらを満たして、はじめてライセンスが下ります。
二つ目は迂回の封じ込めです。BISは5月31日のガイダンスで、ライセンスの判断基準を会社の登記上の住所から「最終親会社(ultimate parent)」へと移し、明文化しました。シンガポールやマレーシアに設けたペーパーカンパニー(実体のない子会社)を経由しても、最終親会社が中国・マカオにあれば拒否推定が維持されます。この網は、ブラックウェルやルービン、AMDのMI350xまで覆います(BISガイダンス、2026年5月31日)。1月に扉を少し開け、5月に裏口を閉めた格好です。
三つ目は議会からの圧力です。ここで、よく誤解が生まれます。AI OVERWATCH法案は、ブラックウェルクラスのチップの対中販売を2年間禁止する内容を盛り込んでいます。この法案は1月21日に下院外交委員会を42対2で通過し、5月には上院版(S.4456)も提出されました(congress.gov)。ただし、これはまだ法律ではありません。本会議の採決を経ていない、審議中の法案です。「ブラックウェルはすでに禁止された」という書き方は、事実と食い違います。いまはあくまで、禁止に向けて動いている段階です。
整理すると、防衛線をゆるめる手(1月の緩和)と締める手(5月の封じ込め)が同じ政権の中に併存し、議会はさらに強く締めようと別に動いています。「米国が規制を強化した」という一行でまとめてしまうと、この緊張関係が見えなくなってしまいます。
エヌビディアの主張 ——「規制は逆効果だった」
規制の請求書は、数字となって表れました。エヌビディアは2025年4月9日、米政府からH20チップの対中輸出にはライセンスが必要だとの通知を受けています(エヌビディア10-Q)。その影響はすぐに業績へ跳ね返りました。会社は2026会計年度第1四半期に、H20の過剰在庫と購入義務をめぐって45億ドル(約6800億円)の費用計上(charge)を行い、続く四半期のH20売上の逸失を80億ドル(約1兆2000億円)と見込みました(エヌビディア2026会計年度第1四半期決算、2025年5月28日)。
ジェンスン・フアンCEOは、規制そのものに矛先を向けます。彼は、エヌビディアが中国のAIチップ市場を事実上ファーウェイに明け渡したとして、「我々はあの市場から撤退した」と述べました(CNBC、2026年5月21日)。輸出規制は「すでにおおむね逆効果になった(backfired)」とも主張しています(Tom's Hardware、2026年5月)。市場を空ければそこをファーウェイが埋め、結局は米国のAIスタック(半導体からソフトウェアまでの一連の基盤)の世界的な広がりだけが狭まる、という論法です。
フアンCEOが中国でのシェアを「ゼロ」と表現したくだりは、修辞に近いものです。独立系の推計は、これとは色合いが異なります。バーンスタインは、エヌビディアの中国AIチップ市場でのシェアが2024年の約66%から一桁台まで下がったとみています。急落した方向そのものは本シリーズの前回で見たとおりですが、正確な底がどこかは、観測する側によって数字が割れます。はっきりしているのは、売上が実際に削られたこと、そしてエヌビディアがその原因として規制を名指ししていることです。
ワシントンと強硬派 ——「核兵器を売るようなものだ」
BISの論理は、正反対の地点から出発します。先端AIアクセラレータは武器に準じる戦略物資であり、中国軍や国家AI研究所へ流れ込む経路を断つことが目的だ、という立場です。1月の規則にしても、緩和を「条件付きの許可」として設計しています。輸出する側は、世界全体の半導体生産能力を米国の顧客向けから減らさないこと、中国の購入者を審査(スクリーニング)すること、米国内の第三者試験を経ることを立証しなければなりません(BIS報道発表、2026年1月13日)。
産業界の外に出ると、強硬論はさらに強まります。AI企業Anthropic(アンソロピック)のダリオ・アモデイCEOは、中国に高性能チップを売ることを「北朝鮮に核兵器を売るようなものだ」と表現しました(ブルームバーグ引用、2026年1月)。同じ案件をめぐって、一方は「逆効果」と呼び、もう一方は「核兵器」と呼ぶわけです。エヌビディアが売上を根拠に緩和を推せば、安全保障の側は軍事転用のリスクを根拠に強化を推します。どちらも相手を説得できないまま、政策は緩和と封じ込めの間で揺れ続けています。
中国 —— 封鎖が押し上げた国産化
封じ込めの反作用は、中国側にはっきり表れています。ファーウェイは、自社のAIチップ「Ascend 910C」を2026年に約60万個生産する計画だと報じられました。前年の2倍にあたる規模です(ブルームバーグ、2025年9月29日)。ただし、この数字はあくまで生産計画であって、実際の出荷量ではありません。性能にも、まだ差があります。910CはSMIC(中芯国際)の改良版7ナノメートル工程で作られ、処理能力はエヌビディアのB200の約3分の1と評価されています(B200はTSMCの4ナノメートル)。
それでも、中国のそろばんは回ります。チップ1個の処理が遅ければ、複数を横につなぎ合わせ、クラスター(多数のチップを束ねた計算基盤)として演算力を確保する戦略です。アリババ、テンセント、DeepSeekといった企業が、国産ハードウェアの採用を増やしています。輸出規制と政府の後押しが重なった結果です。ジェンスン・フアンが警告するのも、まさにこの点です。DeepSeekのようなモデルがファーウェイのアーキテクチャに合わせて最適化されてしまえば、後戻りは「チップを買い直す」問題から「ソフトウェアを書き直す」問題へと姿を変えます。本シリーズの前回で見たCUDAロックイン(囲い込み)の、ちょうど鏡像です。今度は中国がCUDAを捨てながら、自分たちの側の囲い込みを積み上げていきます。
危機と最高益が同居する理由
投資家の目で見ると、冒頭の逆説が解けてきます。エヌビディアは、中国リスクをすでに業績見通しの中でゼロとして織り込んでいます。規制関連の見出しがもう一本出たとしても、業績予想がさらに削られる余地は、その分だけ小さいということです。会社は、中国抜きで描く成長を選びました。ブラックウェルとルービンの需要が中国の空白を埋め、データセンター売上は前年同期比で92%伸びています。
もちろん、この構図にも弱い環があります。AI OVERWATCH法案が成立して発効すれば、ブラックウェルの対中販売路が2年間ふさがれ、迂回による売上まで一緒に断たれます。同盟国側の変数もあります。オランダは6月24日、米国に対し、ASMLの対中装置規制をこれ以上広げないよう働きかけました(ブルームバーグ、2026年6月24日)。安全保障での協調と、自国の売上とがぶつかる場面です。
この綱引きは、日本にとっても人ごとではありません。半導体製造装置で世界有数の東京エレクトロンは、売上の少なからぬ部分を中国市場に頼っており、経済産業省は米国と足並みをそろえて対中の装置輸出管理を進める立場にあります。協調を優先すれば、自国メーカーの中国売上が削られかねません。その一方で日本は、次世代半導体の量産をめざすラピダス(Rapidus)や、ソフトバンク傘下のArm、車載などで存在感のあるルネサスなど、独自の供給網を育てる動きも強めています。安全保障では協調しつつ、自国産業の防衛線も引く——日本らしい慎重なかじ取りが問われる局面です。韓国のサムスン電子やSKハイニックスも、広帯域メモリ(HBM)でエヌビディア特需の恩恵を受ける一方、対中の装置・メモリ規制の間接的な射程に入っています。
PRISM Insight・隠れた文脈輸出規制は、しばしば「中国を止める一枚の壁」として読まれます。けれども2026年上半期の実際の動きは、一方向には流れていません。政権はH200クラスを条件付きで解禁し(1月)、すぐさま子会社を使った迂回をふさぎ(5月)、議会はブラックウェルを2年間縛ろうとしています(審議中の法案)。同じ政権の中で、盾をゆるめる手と締める手が同時に動いているのです。エヌビディアはこの壁のおかげでファーウェイの追い上げを遅らせる時間を稼ぐ一方、同じ壁に中国売上80億ドル(約1兆2000億円)を担保として差し出しています。
国境線は、まだ引かれている途中
2026年上半期の構図は、一行では要約できません。BISは1月にH200クラスの扉を条件付きで開け、5月には迂回路を閉じました。議会はブラックウェルをまるごと縛ろうと、別の法案を進めています。その間にエヌビディアは、中国売上を業績から外しながらも四半期で816億ドルを稼ぎ、ファーウェイは910Cの60万個生産計画で空いた席をうかがっています。力の向きが、それぞれにばらばらです。
はっきり言えるのは、政策がまだ固まっていない、ということです。政権は緩和の方へ、議会は強化の方へと引っ張っています。次の局面は、いくつかの具体的な指標で分かれます。OVERWATCH法案が本会議の採決にかかるのか。対中売上の15%を米政府に納めるという口頭の合意が、規定として明文化されるのか。ファーウェイ910Cの実際の出荷量が、計画値の60万個にどこまで届くのか。15%の取り決めは2025年8月に口頭で発表されただけで、まだ規定はありません。60万個も、あくまで計画値であって、実測の出荷量ではありません。これらの指標がどちらへ動くのかを、「半導体主権戦争」シリーズが引き続き追いかけていきます。
本コンテンツはAIが原文記事を基に要約・分析したものです。正確性に努めていますが、誤りがある可能性があります。原文の確認をお勧めします。
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