エヌビディアから顧客を奪ったAIチップ新興企業、IPOへ
CerebrasがIPOを再申請。OpenAIとの100億ドル超の契約、AWSとの提携を背景に、エヌビディア独占に挑む同社の上場が日本のAI産業に与える影響を読み解く。
「エヌビディアはOpenAIの高速推論ビジネスを失いたくなかった。しかし、私たちがそれを奪った」――Cerebras SystemsのCEO、アンドリュー・フェルドマン氏はウォール・ストリート・ジャーナルのインタビューでそう言い切りました。強気とも取れるこの発言が、シリコンバレーの注目を集めています。
2026年4月18日、AIチップ開発スタートアップのCerebras SystemsがIPO(新規株式公開)を再申請しました。上場は5月中旬を予定しており、調達額はまだ公表されていません。同社は「AIのトレーニングと推論において最速のハードウェア」を開発していると自負しており、エヌビディア一強が続くAIチップ市場に真正面から挑もうとしています。
一度は頓挫した上場、なぜ今なのか
CerebrasのIPO挑戦は今回が初めてではありません。2024年にも上場申請を行いましたが、アブダビを拠点とする投資会社G42からの出資をめぐる米国政府の審査が入り、最終的に申請を取り下げた経緯があります。地政学的なリスクが直接、企業の上場計画を狂わせた事例として記憶されています。
その後、同社は資金調達で着実に実績を積み上げました。2025年に11億ドルのシリーズGを完了し、2026年2月にはさらに10億ドルのシリーズHを実施。この時点での企業評価額は230億ドル(約3兆4,000億円)に達しています。
ビジネス面でも大きな前進がありました。Amazon Web Services(AWS)とのデータセンター向けチップ供給契約を締結し、さらにOpenAIとの取引は100億ドル超の規模と報じられています。売上高は2025年に5億1,000万ドルを計上。ただし、純利益については解釈に注意が必要です。特定の一時的項目を含むGAAP基準では2億3,780万ドルの黒字ですが、それらを除いた非GAAP基準では7,570万ドルの赤字となっており、収益構造はまだ発展途上にあります。
エヌビディア一強時代への挑戦者として
現在のAIチップ市場において、エヌビディアの支配力は圧倒的です。データセンター向けGPU市場では8割以上のシェアを握っているとも言われており、AMDやIntelも追随を許していません。
そのような状況の中で、Cerebrasが選んだ戦略は「速さ」への特化です。同社の主力製品であるWSE(Wafer Scale Engine)は、通常のGPUとは根本的に異なるアーキテクチャを採用しており、特にAI推論の速度において強みを発揮します。OpenAIがエヌビディアではなくCerebrasを選んだとされる背景には、この推論速度の優位性があると見られています。
IPOによる資金調達は、次世代チップの開発投資と製造能力の拡充に充てられる見込みです。上場を通じて調達した資本が、エヌビディアとの技術競争においてどれほどの差を縮められるかが問われることになります。
日本企業にとっての意味
このニュースは、日本のテクノロジー産業にとっても他人事ではありません。
まず、半導体サプライチェーンの観点から見ると、CerebrasのウェハースケールチップはTSMC(台湾積体電路製造)で製造されています。日本の半導体製造装置メーカーである東京エレクトロンや信越化学工業などは、TSMCを通じて間接的にこの動きと無縁ではありません。AIチップ需要の多様化は、製造装置・素材の需要増加にもつながる可能性があります。
次に、AIインフラの導入コストという観点です。ソニー、トヨタ、NTTなど、AI活用を本格化させている日本の大企業にとって、エヌビディア以外の選択肢が増えることは、調達コストの交渉力向上を意味します。AIチップ市場に競争が生まれれば、価格や性能の面で恩恵を受ける可能性があります。
一方で、Cerebrasの製品が日本市場に本格展開されるには、まだ時間がかかるという見方もあります。現在の主要顧客はクラウド大手やAI企業に集中しており、日本の製造業や金融機関が直接利用できる段階には至っていません。
また、G42問題が示したように、AIチップをめぐる地政学的リスクは依然として存在します。日本企業がAIインフラを整備する際、どの国・企業の技術に依存するかという問いは、今後ますます重要になってくるでしょう。
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