AI革命の陰の支配者:ASML、半導体製造装置で世界を制する
オランダASMLが極端紫外線リソグラフィ装置で独占的地位を築き、AI革命の鍵を握る。その影響力と日本企業への意味を探る。
4億7800万ドル。これは、世界で最も先進的な半導体チップを作るために必要な、たった1台の機械の値段です。
オランダのASMLが製造する極端紫外線(EUV)リソグラフィ装置は、現在世界で唯一、最先端の半導体製造に不可欠な技術を提供しています。エヌビディアのAIチップからiPhoneのプロセッサまで、私たちが日常的に使うデバイスの99%が、この会社の機械を使って作られているのです。
見えない独占企業の正体
ASMLは、半導体業界では知る人ぞ知る存在でした。しかし、AI革命の到来とともに、その重要性が一気に浮上しています。同社の株価は2025年に36%上昇し、2026年に入ってからもさらに32%の急騰を見せています。
リソグラフィとは、シリコンウェーハに極めて細かいパターンを焼き付ける技術です。ASMLはこの分野で90%のシェアを持ち、特にEUV技術では完全な独占状態にあります。モーニングスターのアナリスト、ハビエル・コレオネロ氏は「リソグラフィは全てのチップの基盤となる技術」だと説明します。
EUV装置の仕組みは驚くほど複雑です。真空状態で溶けた錫の液滴に強力なレーザーを照射し、プラズマを発生させてEUV光を生成。その光を超精密な鏡で誘導し、チップのパターンが刻まれたマスクに反射させて、シリコンウェーハに投影するのです。
追いつくことは「事実上不可能」
ASMLの技術的優位性は、30年間にわたる集中投資の結果です。日本のニコンやキヤノンも一部のリソグラフィ装置を製造していますが、コレオネロ氏は「彼らは遠い競合相手」だと位置づけます。
「これらの大企業でさえ、ASMLが30年間投資してきた額のほんの一部しか投資していません。この時点で追いつくことは事実上不可能です」
実際、ASMLの技術的な護城河は深く、広がっています。同社は現在、次世代の高開口数EUV装置を開発中で、バンク・オブ・アメリカのアナリストは「次世代EUVリソグラフィで独占的地位を築くだろう」と予測しています。
日本企業への波及効果
ASMLの躍進は、日本の半導体関連企業にとって複雑な意味を持ちます。ソニーのイメージセンサー、トヨタの自動車用半導体、任天堂のゲーム機チップ—これらの製造にもASMLの技術が関わっているからです。
一方で、日本政府が推進する半導体国産化戦略にとって、ASMLの独占は大きな課題となります。TSMCの熊本工場誘致も、結局はASMLの装置に依存する構造は変わりません。
2025年第4四半期、ASMLの受注額は132億ユーロに達し、アナリスト予想の2倍を超えました。そのうちEUV関連だけで74億ユーロを占めています。2026年の売上予想は340億〜390億ユーロと、2025年の327億ユーロを上回る見込みです。
地政学的な新たな火種
ASMLの独占的地位は、地政学的な新たな複雑さも生み出しています。オランダ政府は既に中国向けのEUV装置輸出を制限しており、これが米中技術競争の新たな戦線となっています。
高開口数EUV装置は現在、TSMC、インテル、サムスンが研究開発段階で実験中です。本格的な量産導入は2027〜2028年と予想され、インテルが最初の採用企業になる見込みです。
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