科学への信頼回復か、反科学との妥協か
NIH新所長が反科学団体MAHAと手を組む背景と、科学政策の未来への影響を探る
5時間にわたって続いた異例の対話。アメリカ国立衛生研究所(NIH)の新所長ジェイ・バタチャリア氏が、科学界では「反科学」として知られるMAHAインスティテュートの壇上に立ち、部分的なスタンディングオベーションで迎えられた。
パンデミックが変えた科学と政治の関係
MAHA(Make America Healthy Again)は、ワクチン懐疑論や代替医療推進で知られる団体だ。通常なら、世界最大の科学研究機関であるNIHのトップとは対立する立場にある。しかし1月末のワシントンDCでの会合では、予想外の「共通点」が浮き彫りになった。
バタチャリア氏はスタンフォード大学の経済学者出身で、パンデミック期間中のロックダウン政策に一貫して反対してきた人物だ。彼のNIH所長就任は、科学界に大きな波紋を呼んでいる。「第二の科学革命」と彼が呼ぶプロジェクトの実現には、従来の科学コミュニティだけでは不十分だと考えているようだ。
見つかった5つの共通点
会合では意外なほど多くの合意点が見つかった。パンデミック対応への怒り、医療制度の失敗への批判、食事による健康改善への注目、そして何より「科学が人々の信頼を失った」という認識だ。
バタチャリア氏は聴衆に向けて明確にメッセージを調整していた。科学的厳密性よりも、政治的支持基盤の確保を優先したように見える瞬間もあった。これは従来のNIH所長とは大きく異なるアプローチだ。
日本の科学政策への示唆
日本でも科学への信頼は課題となっている。理化学研究所や産業技術総合研究所など、日本の研究機関は政治的中立性を保ちながら信頼回復に努めてきた。しかしアメリカの変化は、科学政策のグローバルスタンダードに影響を与える可能性がある。
特に注目すべきは、バタチャリア氏が提唱する「第二の科学革命」の具体的内容だ。もしこれが反科学的な政策を科学的に正当化する試みなら、国際的な科学協力にも影響が及ぶかもしれない。
科学と政治の新たな境界線
今回の会合が示すのは、科学と政治の境界線が曖昧になっていることだ。科学者が政治的支持を得るために科学的厳密性を妥協するのか、それとも科学への信頼回復のための戦略的判断なのか。
NIHの年間予算は約5兆円に上る。この巨大な研究資金の使い道が、政治的配慮によって左右される可能性が高まっている。
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