女子高生が「激しさ」を求める理由
アメリカの女子高生の間でフラッグフットボールやレスリングなどコンタクトスポーツへの参加が急増。この現象が示す文化的変化と、日本の女子スポーツ環境への示唆を読み解く。
「女の子らしく」という言葉が、スポーツの現場から静かに消えつつあります。
アメリカの高校では昨年度、女子のレスリング参加者数がフィールドホッケー、体操、ダンスのいずれをも上回りました。フラッグフットボールに至っては、過去5年間で女子ティーンエイジャーの参加者数が急増しており、NFLはこの流れを受けて、女子プロフラッグフットボールリーグの創設を2024年12月に発表しました。アイスホッケー、ラグビー、タックルフットボール——かつては男性のものとされてきたコンタクトスポーツが、今や女子高生の間で最も成長の速いスポーツ種目に並んでいます。
これは単なるスポーツの流行ではありません。女性と「激しさ」の関係をめぐる、長年の文化的タブーが変わろうとしているサインかもしれません。
「ぶつかること」は、なぜ女性に禁じられてきたのか
20世紀初頭のアメリカでは、女性がスポーツで激しく体を動かすことは「品位に欠ける」とされていました。女子バスケットボールでは、ボールを「奪う」行為が1960年代まで禁止されていたほどです。身体的な接触は特に忌避され、公の場での攻撃的な動きはほぼ全面的に非難されていました。
その後、男女のスポーツルールは徐々に統一されていきましたが、女性アスリートの「激しさ」に対する社会的な視線は変わりにくいままでした。WNBAでケイトリン・クラークとエンジェル・リースが肘をぶつけ合えば批判が殺到する一方、NBAやNHLの選手が同じことをしても「ゲームの一部」として受け入れられる——この非対称性は今も続いています。
しかし、グラウンドの現場では変化が起きています。
なぜ今、女子たちはコンタクトスポーツを選ぶのか
ミネソタ大学タッカーセンターのディレクター、ニコール・ラヴォイ氏は、従来の女子スポーツに根深く残る「細さが勝利への道」という価値観を指摘します。長距離走やノルディックスキーでは、体型への過度なプレッシャーが今もあります。女子が男子の2倍の割合でスポーツをやめてしまう背景には、約半数が「ボディイメージへの不安」を挙げているという調査結果があります。
フラッグフットボールやラグビーは、こうした「細さ」への執着とは無縁です。フラッグフットボールは敏捷性のスポーツであり、参加した女子選手の多くは「より速く、より爆発的に動くため」にウエイトトレーニングをしていると語ります。ラヴォイ氏は言います。「10年前なら、フットボールをやりたい女の子は『男っぽすぎる』とからかわれたでしょう。でも今は、中学生の女の子がラインバッカーになれると、社会が受け入れ始めています」
参加のしやすさも見逃せない要因です。フラッグフットボールの試合時間は約40分——一般的なサッカーの試合の半分程度です。練習は試合直前に行われることが多く、忙しい家庭でもスケジュールを組みやすい。費用も比較的安く、競争が激しいバスケットボールやサッカーのチームに入れなかった子どもたちにとっての受け皿にもなっています。
そして、もう一つの理由があります。スマートフォンの画面越しの交流が当たり前になった時代に、「体と体でぶつかり合う」リアルな感覚を求めている、という側面です。女性スポーツ財団の調査によれば、女子がスポーツをする主な理由は「社会的なつながりと友情」。ワシントンD.C.在住の13歳のラインバッカー、エブリンはこう語ります。「フラッグを上手く引っ張ると、チームメイトがすぐに駆け寄ってきてくれる。チームのためにやった、って感じがする」
スポーツが変える、女性の人生
この現象には、長期的な意味があります。子ども時代を通じてスポーツを続けた女性は、そうでない女性と比べて成人後の身体的健康状態が良好な傾向があります。スポーツをする子どもは、精神的健康、友人関係の豊かさ、自己肯定感、ポジティブなボディイメージ、学業成績のいずれにおいても優れているというデータもあります。2014年の調査では、女性企業幹部400人の94%がスポーツ経験者でした。
非営利団体「レスル・ライク・ア・ガール」のCEO、サリー・ロバーツ氏は、高校時代のレスリング経験が人生を変えたと言います。家族で初めて高校・大学を卒業し、全国レスリング選手権で3度の優勝を果たした彼女は、「接触スポーツを通じて培った精神力が、その後のあらゆる挑戦の土台になった」と振り返ります。
NHLの複数のチームが女子アイスホッケーのクリニックやキャンプを支援し、NFLが女子プロリーグの設立を発表するなど、プロスポーツ界もこの流れへの長期投資を始めています。
日本の女子スポーツへの示唆
日本でも、女子スポーツの参加環境は変わりつつあります。女子ラグビーや女子レスリングは国際舞台で輝かしい実績を持ち、東京五輪では女子スケートボードや女子ボクシングが注目を集めました。しかし学校体育や部活動の現場では、依然として「女子らしさ」の規範が根強く残っているケースも少なくありません。
アメリカで起きているコンタクトスポーツへの参加増加は、単に「激しいスポーツが流行している」という話ではありません。それは、「女性の体はどうあるべきか」「女性はどう競い合うべきか」という問いへの、若い世代からの静かな回答です。日本の教育現場や保護者にとっても、「どんなスポーツを女子に勧めるか」を改めて問い直すきっかけになるかもしれません。
記者
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