移民取締りで射殺、調査拒否する政権の意図
トランプ政権がアレックス・プレッティ射殺事件の民権調査を拒否。内部調査のみで済ませる判断の背景と、連邦捜査官による射殺事件が無処罰となる構造を分析。
10発の銃弾が37歳の男性を倒した後、アメリカ政府は調査さえ拒否した。
1月24日、ミネアポリスで連邦移民取締官がアレックス・プレッティ氏を射殺した事件で、司法省は民権侵害の調査を行わないと発表した。代わりに、国境警備隊の親組織である税関・国境警備局(CBP)が内部調査を実施し、「規則違反があったか」を調べるという。
内部調査という名の隠蔽
通常、連邦捜査官による市民の射殺事件では、FBIが民権侵害の可能性を調査する。しかしトランプ政権は、この慣例を破った。さらに驚くべきことに、国土安全保障省の別部門であるHSI(ICEの一部)が、射殺されたプレッティ氏自身の「犯罪の可能性」を調査するという。
被害者を加害者扱いする構図は、今回が初めてではない。今月初旬、ICE捜査官ジョナサン・ロスがレニー・グッド氏を至近距離で射殺した事件でも、司法省はFBIの民権調査を中止し、代わりにグッド氏の遺族を捜査対象にした。この決定に抗議して、10人以上の司法省検察官が辞職している。
ビデオが映した「10秒間の処刑」
プレッティ氏の死は、偶然撮影されたビデオによって世界中に拡散された。映像は衝撃的だった:連邦捜査官らがプレッティ氏を膝をつかせた後、10秒以内に少なくとも10発を発砲。プレッティ氏は、同じ捜査官らに催涙スプレーをかけられた女性を守ろうとしていた最中だった。
昨年夏以降、連邦移民取締官による射殺事件は16件発生している。しかし、捜査官に対する刑事告発はゼロ。懲戒処分さえ確認されていない。
州裁判所も手が出せない構造
連邦職員の起訴は州裁判所でも可能だが、現実的には極めて困難だ。連邦政府が「職務遂行中」と主張すれば、事件は連邦裁判所に移管される可能性が高い。そして連邦検察官が起訴を拒否すれば、事実上の免責となる。
この構造的な問題は、トランプ政権下でより顕著になっている。政権は移民取締りを「戦争」と位置づけ、捜査官の行動を積極的に擁護する姿勢を示している。
日本から見た「法の支配」の危機
日本の読者にとって、この事件は遠い国の出来事に見えるかもしれない。しかし、法執行機関が内部調査で済ませ、外部の監視を拒否する構造は、民主主義の根幹に関わる問題だ。
日本でも警察の不祥事が内部調査で処理されることがあるが、アメリカの状況はより深刻だ。連邦捜査官という「国家権力の最前線」が、事実上の治外法権を享受している。
記者
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