AIチップ需要が半導体業界を塗り替える
ASMLが2026年の売上予測を上方修正。AI関連投資がチップ需要を押し上げる中、中国向け輸出規制という逆風も。日本企業や投資家への影響を多角的に分析します。
需要が供給を上回っている。この一文が、今の半導体業界のすべてを物語っています。
ASMLが示した「チップ不足」の現実
オランダの半導体製造装置メーカー ASML は2026年4月、2026年通期の売上予測を引き上げました。従来の予測は340億〜390億ユーロでしたが、新たな予測は360億〜400億ユーロへと上方修正されました。背景にあるのは、2026年第1四半期の好調な業績です。同四半期の純売上高は88億ユーロ(約1兆400億円)と、市場予測の85億ユーロを上回り、純利益も28億ユーロと予測の25億ユーロを超えました。
ASML のCEO、クリストフ・フーケ氏はこう述べています。「AIインフラへの継続的な投資に牽引され、半導体業界の成長見通しは着実に固まっています。チップの需要は供給を上回っており、顧客企業は2026年以降の生産能力拡大を加速させています。」
ASML は、最先端半導体の製造に欠かせない露光装置(EUV)を世界で唯一製造できる企業です。つまり、同社の受注動向は半導体業界全体の体温計とも言えます。その体温計が「発熱中」を示しているのです。
なぜ今、メモリチップが主役なのか
今回の業績で特筆すべき点があります。第1四半期の新規装置売上のうち、51%がメモリチップ向けでした。前四半期の30%から大幅に増加しています。
メモリチップはAIシステムやデータセンターの根幹を支える部品です。大量のデータを高速処理するためには、膨大なメモリ容量が必要であり、現在その供給が需要に追いついていません。価格は前例のない水準にまで上昇しています。
この状況を受け、韓国の サムスン電子 と SKハイニックス は生産能力の増強を計画しており、その設備投資には ASML の装置が不可欠です。第1四半期の顧客別売上比率を見ると、韓国が45%、台湾が23%を占めており、アジアへの依存度の高さが改めて浮き彫りになっています。
TSMC(台湾積体電路製造)も先週、第1四半期の売上高が過去最高を記録したと発表しており、AI向けチップ需要の強さを裏付けています。
中国という「見えない壁」
しかし、ASML の前途に影を落とす問題があります。中国向けの輸出規制です。
現在、ASML は最先端のEUV露光装置を中国に輸出することが禁じられています。その影響は数字に明確に表れています。中国向けの売上比率は、2025年第4四半期の36%から、2026年第1四半期には19%へと急落しました。
さらに、今月に入り米国の超党派の議員グループが、ASML の比較的旧型の装置(DUV露光装置)についても中国への輸出を禁止する法案を提出しました。この法案はまだ立法プロセスの途上にありますが、もし成立すれば ASML の中国ビジネスはほぼ消滅することになります。
ここに、現代の地政学的緊張が企業経営に直接影響を与えるという構図が見えます。AIブームという追い風と、米中技術覇権争いという向かい風が、同時に吹き荒れているのです。
日本企業・投資家への影響
このニュースは、日本の投資家や企業にとっても他人事ではありません。
まず、東京エレクトロン や 信越化学工業 など、半導体製造装置・素材を手がける日本企業は、 ASML と同じ恩恵を受ける可能性があります。AI向け投資の拡大は、製造装置全体への需要増につながるからです。
一方、日本の電機メーカーや自動車メーカーにとっては、チップ不足と価格上昇が製品コストを押し上げるリスクがあります。少子高齢化が進む日本では、工場の自動化や介護ロボットへの需要が高まっており、半導体の安定調達は産業競争力に直結します。
また、中国向け輸出規制の強化は、中国に生産拠点や販売網を持つ日本企業のサプライチェーンにも影響を与えかねません。中国の半導体製造能力が制限されれば、中国国内で生産される電子製品のコストや品質にも波及するためです。
投資家の視点からは、ASML 株(NASDAQ上場)や関連する半導体ETFへの関心が高まるかもしれません。ただし、地政学リスクと規制の不確実性が株価のボラティリティを高める要因になることも念頭に置く必要があります。
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