「たかがインフル」の代償:年間65万人の死者が示す真実
インフルエンザで年間65万人が死亡する現実。ユニバーサルワクチンの開発が進む中、日本の接種率低下が問題となっている。
今冬、ニューヨーク市はインフルエンザ関連入院者数の記録を更新した。アメリカ疾病予防管理センター(CDC)は今シーズンを「中程度に深刻」と分類し、すでに1,100万人の患者、12万人の入院、5,000人の死者を記録している。
しかし、これは単なる季節性の不便ではない。世界保健機関(WHO)によると、インフルエンザは年間10億人が感染し、500万人が重症化、最大65万人が死亡する疾患だ。日本でも毎年約1,000万人が感染し、1万人以上が関連死している。
「普通のワクチン」では限界がある理由
現在の季節性インフルエンザワクチンの有効性は、良くても70~75%(子ども)、30~35%(成人)程度だ。これは麻疹ワクチンの95%超の有効性と比べると、明らかに見劣りする。
その理由は、インフルエンザウイルスの「乱交性」にある。ウイルス株は絶えず進化し、「再集合」と呼ばれるプロセスで遺伝物質を交換して新たな変異株を生み出す。今シーズン猛威を振るうH3N2の亜系統「サブクレードK」も、複数の変異により現行ワクチンの効果を低下させている。
国際保健当局は毎年新しいワクチン株を作成し、数か月後の流行株を予測しなければならない。この「賭け」が外れれば、ワクチンの効果は大幅に低下する。
ユニバーサルワクチンという希望
科学者たちは今、「ユニバーサル」インフルエンザワクチンの開発を進めている。これはインフルエンザAウイルスに対して75%以上の有効性を持ち、少なくとも1年間の持続的な保護を提供するワクチンだ。
主要なアプローチは3つある。第一に、変化の速い「頭部」ではなく、より安定した「茎部」を標的とする手法。第二に、複数株の抗原を同時に提示し、共通の特徴を認識させる「モザイク」手法。第三に、T細胞応答を強化して重症化を防ぐ手法だ。
さらに革新的な取り組みも進んでいる。シダラ社は神経アミニダーゼ阻害剤と長期持続抗体を結合させた予防薬を開発し、現在メルク社による買収が進行中だ。オーストラリアの科学者たちはCRISPR遺伝子編集技術を使った鼻腔スプレー型抗ウイルス薬の開発を進めている。
日本が直面する課題
日本では高齢化社会の進展により、インフルエンザの脅威がより深刻化している。65歳以上の高齢者は重症化リスクが高く、医療システムへの負担も大きい。しかし、コロナ禍以降、ワクチン接種率の低下が懸念されている。
日本の製薬企業も対応を迫られている。第一三共や武田薬品などは、mRNA技術を活用した次世代インフルエンザワクチンの研究開発を加速している。従来の鶏卵培養法から脱却し、より迅速で効果的なワクチン製造を目指している。
文化的な側面も重要だ。日本人の「迷惑をかけない」という価値観は、ワクチン接種による集団免疫の形成に有利に働く可能性がある。一方で、副反応への過度な懸念や「自然派」志向の高まりが接種率低下の要因となっている。
記者
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