ホルムズ海峡が閉じたら、日本はどうなるか
トランプ大統領がイランの発電所を「壊滅させる」と警告。ホルムズ海峡封鎖の脅威が現実になれば、日本のエネルギー安全保障と経済に何が起きるのか。その構造的リスクを読み解く。
日本が輸入する原油の約9割は、幅わずか33キロメートルの海峡を通過する。もしその水路が閉じられたら——それは今、絵空事ではなくなりつつあります。
何が起きているのか
2026年3月、トランプ大統領はソーシャルメディアへの投稿で、イランが中東の主要海上輸送路を船舶に開放しない場合、「イランの発電所を壊滅させる」と警告しました。名指しされた水路はホルムズ海峡——ペルシャ湾とオマーン湾を結ぶ、世界で最も戦略的な意味を持つ航路の一つです。
この発言は単なる外交的レトリックではありません。トランプ政権はすでにイランに対する「最大限の圧力」政策を復活させており、核合意をめぐる交渉が行き詰まる中、軍事的選択肢をちらつかせる頻度が増しています。イラン側はこれまでも、米国やイスラエルとの緊張が高まるたびに「海峡封鎖」を交渉カードとして使ってきた経緯があります。
背景には、イランの核開発をめぐる長期的な膠着状態があります。バイデン政権時代に試みられた外交的アプローチは実を結ばず、トランプ政権の復帰とともに対イラン制裁が再強化されました。イランの石油輸出収入が圧迫される中、同国は地域における影響力——フーシ派やヒズボラなどの代理勢力——を通じて揺さぶりをかけ続けています。
日本にとって「他人事」ではない理由
ホルムズ海峡は、世界の石油貿易量の約20%が通過する咽喉部です。日本にとっては、それ以上の意味を持ちます。
資源エネルギー庁のデータによれば、日本の原油輸入の約90%以上が中東に依存しており、その大半がホルムズ海峡を経由します。東日本大震災後に原子力発電所の多くが停止して以来、日本のエネルギーミックスにおけるLNG(液化天然ガス)と石油の比重はむしろ高まっています。海峡が封鎖された場合、代替ルートはほぼ存在しません。
経済への波及も直接的です。原油価格が急騰すれば、トヨタや新日本製鐵などの製造業はコスト増に直面します。電力料金の上昇は家計を直撃し、すでに物価上昇に苦しむ日本の消費者にさらなる負担をかけます。円安局面が続く中での原油高は、輸入インフレを加速させる「二重苦」となりかねません。
さらに見落とされがちな視点があります。日本の海運会社——日本郵船、商船三井、川崎汽船——はホルムズ海峡を頻繁に航行しており、有事の際には保険料の急騰や航路変更による物流コストの増大が避けられません。
複雑な現実:脅しは本物か
ただし、ここで立ち止まって考える必要があります。「壊滅させる」という言葉は、トランプ氏の交渉スタイルの一部である可能性も否定できません。
イランの発電所への攻撃は、技術的・軍事的に高いリスクを伴います。民間インフラへの攻撃は国際法上の問題を引き起こし、地域全体の不安定化を招く可能性があります。ロシアや中国がイランを支持する中、米国が単独で軍事行動に踏み切ることへの国際的なコストは小さくありません。
一方、イランにとっても海峡封鎖は「もろ刃の剣」です。封鎖はイラン自身の石油輸出も止め、経済的に追い詰められた状況をさらに悪化させます。過去にも「封鎖する」と宣言しながら実行には至らなかった歴史があります。
とはいえ、フーシ派による紅海での船舶攻撃が2024年から本格化し、実際に国際海運を混乱させたことは記憶に新しい。「脅し」が「現実」に変わるリスクを、単純に「ブラフ」と切り捨てることはできない時代になっています。
異なる立場からの視点も重要です。サウジアラビアやUAEなどの湾岸諸国は、海峡封鎖を最も恐れる当事者の一つです。彼らにとっても石油輸出の生命線だからです。欧州各国は米国の強硬姿勢に懸念を示しつつも、独自の対イラン外交チャンネルを模索しています。そして中国は——イランの最大の石油輸入国として——この緊張の行方を固唾を呑んで見守っています。
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