ホルムズ海峡封鎖、日本経済を直撃する本当のリスク
中東戦争の長期化懸念でNikkeiが572円安。IEAの備蓄放出も市場の不安を払拭できず。資源小国・日本が直面するスタグフレーションの現実とは。
ホルムズ海峡が「事実上の封鎖」に近い状態になったとき、日本は何日分のエネルギーで生き延びられるだろうか。
市場が映し出した「根本解決なき不安」
2026年3月12日、東京株式市場は重苦しい空気に包まれた。日経平均株価は前日比572.41円安(1.04%下落)の54,452.96円で引け、東証株価指数(TOPIX)も49.00ポイント(1.32%)下落した。不動産、消費者金融、農林水産関連銘柄が特に売られた。
注目すべきは、この下落が「悪材料の出現」ではなく「期待の剥落」によるものだった点だ。国際エネルギー機関(IEA)が史上最大規模の戦略備蓄放出を発表したにもかかわらず、市場は反応しなかった。「備蓄放出のニュースはすでに織り込み済みだった。そして市場は、それがホルムズ海峡の実質的な閉鎖という根本問題の解決策にはならないと見ている」と、複数のディーラーは述べた。
為替市場では、有事の際に買われるドルが一時1ドル=159円台まで上昇。資源を海外に依存する日本にとって、円安は輸入コストの上昇を意味し、二重の打撃となっている。
東海東京インテリジェンス・ラボのシニアアナリスト、仙石誠氏はこう語る。「問題の根本原因が解決されていない以上、市場は短期決着ではなく長期化を織り込まざるを得ない状況になりつつある。」
なぜ「今」これほど深刻なのか
ホルムズ海峡は、世界の原油取引量の約20%が通過する咽喉部だ。湾岸産油国からの液化天然ガス(LNG)や原油の大部分がここを経由する。日本の原油輸入の約9割が中東に依存しており、その多くがこの海峡を通る。
タイミングも悪い。日本経済はコロナ禍後の回復局面にあったが、円安と物価上昇が家計を圧迫し続けていた。そこに原油価格の高騰が重なれば、日本銀行が金融政策の正常化を進める中でインフレがさらに加速する可能性がある。エネルギーコストの上昇は製造業のコスト構造を直撃し、トヨタやパナソニックのような輸出企業でさえ、円安メリットをエネルギーコスト増が相殺しかねない。
スタグフレーション、つまり「高インフレと低成長の同時進行」という最悪のシナリオが、市場関係者の間でリアルな懸念として浮上している理由はここにある。
日本政府と市場の「温度差」
日本政府は既に動いている。経済産業省は石油備蓄の放出準備を指示し、エネルギー補助金の継続も視野に入れている。一見、適切な対応に見える。
しかし、市場の反応は冷静だ。備蓄放出は時間稼ぎにはなるが、構造的な問題——中東への過度な依存——を解決しない。日本が長年議論してきた再生可能エネルギーへの転換、原子力発電の再稼働、中東以外の調達先多様化は、いずれも「数十年単位」のプロジェクトだ。今この瞬間の危機には間に合わない。
一般市民の視点から見れば、影響はより具体的だ。ガソリン価格の上昇、電気・ガス料金の高騰、食料品を含む物価全般の上昇——これらは家計の実質購買力を直接削る。特に年金生活者や低所得層への影響は深刻になりうる。
国際社会の目線では、日本のエネルギー脆弱性は今に始まった話ではない。1973年のオイルショックで深刻なダメージを受けた経験を持つ日本は、その後もエネルギー安全保障を国家戦略の中心に置いてきたはずだった。それでも、50年以上経った今も中東依存から抜け出せていない現実は、国際社会から「日本の構造的脆弱性」として認識されている。
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