台湾の「エネルギーの急所」—イラン戦争が照らす半導体大国の脆弱性
イラン戦争が中東の石油・ガス供給を脅かす中、半導体産業を支える台湾のエネルギー依存構造が改めて問われている。日本企業のサプライチェーンへの影響とは。
TSMCの工場が止まれば、世界中のスマートフォン、自動車、データセンターが止まる。そのTSMCを動かしているのは、中東から運ばれてくる石油と天然ガスだ。
台湾が「特別に脆弱」な理由
イラン戦争が激化する中、エコノミストや専門家たちは口をそろえて台湾を名指しする。アジアの主要テック経済圏の中でも、台湾は特に脆弱だというのだ。なぜか。
台湾は国内に大きなエネルギー資源をほとんど持たない。電力の約8割を化石燃料に依存しており、そのうち液化天然ガス(LNG)と石油の相当部分が中東から調達されている。2011年の福島原発事故以降、脱原発の流れが加速したことで、化石燃料への依存はむしろ深まってきた。そして今、その中東がイラン戦争によって揺れている。
ホルムズ海峡は世界の石油輸送量の約20%が通過する「エネルギーの咽喉部」だ。イランとの緊張が高まるたびに、この海峡の封鎖リスクが市場を揺さぶってきた。今回も例外ではない。LNGタンカーはすでにアジア向けの航路変更を余儀なくされており、アジアのスポット価格は急騰している。
半導体産業への連鎖効果
台湾の半導体製造は、想像以上に電力を食う産業だ。TSMC単体で台湾全体の電力消費の約8%を占めるとされており、先端プロセスへの移行が進むほどその比率は上がっていく。電力コストの上昇は、製造コストに直結する。
ここで日本企業にとって重要な問いが生まれる。ソニーのイメージセンサー、トヨタの車載半導体、任天堂のゲーム機チップ——これらの多くは台湾の工場で製造されている。台湾のエネルギーコストが上昇すれば、これらの部品調達コストも押し上げられる可能性がある。
日本政府がすでに石油備蓄の放出準備を命じたことは、事態の深刻さを物語っている。しかし備蓄はあくまで短期的な緩衝材に過ぎない。LNG価格の高騰が長期化すれば、日本自身も台湾と同様のエネルギーコスト上昇圧力に直面する。
「脱中東依存」は可能か
台湾当局はエネルギーの多様化を長年の課題として認識している。再生可能エネルギー、特に洋上風力発電の拡大を進めており、デンマークのVestasが日本でも風力タービンを建設するなど、アジア全体で再エネシフトの動きは加速している。しかし現実は厳しい。
台湾の洋上風力は計画通りに進んでいない。用地確保、送電網整備、コスト問題——技術的課題だけでなく、政治的・行政的な障壁も多い。2030年代までに再エネ比率を大幅に高めるという目標と、現在の進捗には大きな乖離がある。
一方で、米国のLNGサプライヤーは今回の中東危機を商機と捉えている。米国産LNGのアジア向け輸出拡大は、地政学的にも経済的にも双方にとって利益をもたらし得る。ただし、新たなLNGインフラの整備には時間とコストがかかる。今この瞬間の供給不安を解消するものではない。
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