大学は学生を守っているか?性被害の「沈黙」が示すもの
米国の大学キャンパスで性的不正行為を経験した学生の84%が正式な報告をしない。なぜ学生は大学を信頼できないのか。制度的裏切りという概念から考える。
被害を受けた学生の84%が、大学に何も報告しなかった。
これは道徳的な問題ではなく、信頼の問題だ。2024年に米国で実施された「高等教育における性的不正行為・意識調査」は、180,323人の学部生・大学院生を対象に10校で行われた大規模な調査である。その結果は、数字としては知られていても、なかなか正面から向き合われることのない現実を浮き彫りにした。女子学部生および性的少数派の学部生の約5人に1人が、在学中に性的暴行を経験している。男子学部生でも17人に1人が同様の経験を報告している。
しかし、より深刻なのは被害の数そのものよりも、その後に起きることだ。
「相談しても無駄」という学生たちの確信
社会学者・心理学者・博士課程の研究者チームは2022年、米国の大規模大学で約2,500人の学生を対象に調査を実施した。さらにその前段階として、67人の学生・教職員を対象にインタビューと焦点グループ調査も行っている。
研究者たちが注目したのは、被害を受けた学生だけではなかった。「大学はこういう問題にどう対応すると思うか」という問いを、被害経験の有無にかかわらず広く学生に投げかけた。
返ってきた答えは、一貫して悲観的だった。
多くの学生が、大学は性的不正行為への対応を「適切に行わない」と信じていた。そしてその判断の根拠として挙げられたのは、性的被害への対応だけではなかった。たとえば、ある学生グループがLGBTQ+の学生を「堕落」「異常」といった言葉で公然と侮辱した際に、大学が何の処分も下さなかった事例が繰り返し語られた。
「大学が差別や不正義の場面で学生を守ろうとしないなら、性的暴力の場面でも守ってくれるとどうして信じられるのか」と、ある学生は語っている。
研究者たちはこの現象を「制度的裏切り(institutional betrayal)」という概念で説明する。これは、学校や組織が被害から守ることに失敗したり、被害後の対応が不十分だったりするときに人々が感じる感覚だ。研究によれば、性的暴行を経験した大学生の50〜90%がこの制度的裏切りを感じているという。さらに注目すべきは、「二次的制度的裏切り」という概念だ。自分が直接被害を受けていなくても、他者への対応を見て同様の不信感を抱く現象であり、今回の調査でも多くの学生にこの傾向が見られた。
大学はなぜ「ダメージコントロール」を優先するのか
インタビューに参加した学生たちは、大学が被害者支援よりも「訴訟回避」と「評判管理」を優先していると感じていた。ある参加者は「大学は被害者を助けようとするより、ダメージコントロールに動く」と率直に述べた。
この構造的な問題は、2025年に一層複雑になっている。トランプ政権が発令した多様性・公平性・包摂性(DEI)イニシアティブを禁止する大統領令を受け、多くの大学が女性センターや多文化センターを閉鎖した。これらは性的被害や差別を報告するための重要な窓口でもあった。研究者たちは、性的不正行為と差別は互いに連動しており、同時に対処することが効果的だと指摘してきた。その連携の基盤が、制度的に削られつつある。
日本の視点から見ると、この問題は決して対岸の火事ではない。日本の大学においても、ハラスメント相談窓口の形骸化や、被害者が声を上げにくい文化的圧力は長年指摘されてきた。文部科学省が大学に対してハラスメント対策の強化を求めているにもかかわらず、「相談しても何も変わらない」という学生の声は日本でも聞かれる。制度への不信は、報告率の低さとなって現れ、問題の実態を見えにくくする悪循環を生む。
信頼を再構築するために何が必要か
研究者たちはいくつかの提案を挙げている。大学がキャンパス内の被害状況を把握するためのコミュニティ会議の開催、学生や関係者からの改善アイデアの収集などだ。ただし、これらはあくまで出発点であり、効果の検証はこれからだと研究者自身も認めている。
重要なのは、「何を報告するか」ではなく「誰に報告できるか」という信頼の問題であることだ。手続きや窓口を整備するだけでは不十分で、学生が「この組織は自分の側に立ってくれる」と感じられる文化そのものを育てる必要がある。
本コンテンツはAIが原文記事を基に要約・分析したものです。正確性に努めていますが、誤りがある可能性があります。原文の確認をお勧めします。
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