米国ステーブルコイン法案、「利回り」をめぐる攻防
米国の暗号資産市場構造法「Clarity Act」の最新草案では、ステーブルコイン保有者への利回り付与が厳しく制限される見通し。銀行業界と暗号資産業界の綱引きが、日本市場にも影響を与える可能性がある。
「ステーブルコインを持っているだけでは、もう利息はもらえない」——米国議会で進む規制の草案は、そんな未来を示唆しています。
何が起きているのか
2026年3月23日、米国上院議員のアンジェラ・アルソブルックス氏とトム・ティリス氏が、デジタル資産市場構造法(Clarity Act)の改訂版に関する発表を行いました。その核心にあるのは、ステーブルコインの「利回り(yield)」をどこまで認めるか、という問題です。
月曜日、暗号資産業界の関係者たちはワシントンのキャピトルヒルで非公開のレビューに参加し、改訂草案の中身を初めて目にしました。その第一印象は、業界内部の関係者によれば「過度に狭く、かつ不明確」というものでした。
具体的に何が変わるのでしょうか。最新草案では、2つの制限が明確に設けられています。第一に、ステーブルコインを「ただ保有しているだけ」で得られる利回りは禁止されます。第二に、銀行預金の利息と少しでも似た仕組みは認められません。代わりに、ユーザーがステーブルコインを使った「活動」に基づく報酬プログラムは、一定の条件のもとで許可される方向です——ただし、その「活動」の定義が依然として曖昧なまま残されています。
なぜ今、この問題が重要なのか
この規制の背景を理解するには、銀行業界と暗号資産業界の対立構造を知る必要があります。
銀行側の主張はシンプルです。「ステーブルコインが利息を払えば、それは実質的に銀行預金と同じだ。そうなれば、私たちの融資業務が圧迫される」というものです。銀行が預金を集めて融資を行うという伝統的なビジネスモデルが、暗号資産によって侵食されることへの危機感が根底にあります。
一方、暗号資産業界は「利回りこそがステーブルコインの競争力の源泉だ」と反論します。DeFi(分散型金融)の世界では、ユーザーが資産を預けることで利回りを得る仕組みが広く普及しており、これを制限することは業界の成長を妨げると訴えています。
この綱引きは、Clarity Actの審議を長期間にわたって停滞させてきました。今回の妥協案は、その膠着状態を打開しようとする試みです。昨年、GENIUS Act(ステーブルコイン規制の第一弾)が米国初の主要な暗号資産法として成立しましたが、Clarity Actはその「第二弾」として、より包括的な暗号資産規制の完成を目指すものです。
日本市場への影響と残された課題
日本の投資家や企業にとって、この米国の動向は決して対岸の火事ではありません。ソニーのブロックチェーン子会社や、国内の複数の暗号資産取引所は、ステーブルコインを活用した金融サービスの展開を模索しています。米国の規制枠組みが確定すれば、それはグローバルスタンダードとなり、日本の金融庁が策定する規制にも影響を与える可能性があります。
Clarity Actにはステーブルコイン利回り以外にも、未解決の問題が残っています。DeFiへの規制アプローチについては、民主党が不正資金対策の強化を要求しており、合意に至っていません。また、トランプ大統領を念頭に置いた「政府高官による暗号資産での個人的利益の禁止」条項も、依然として政治的な火種となっています。
法案が上院銀行委員会の審議を通過し、最終的な投票に至るまでには、まだいくつかのハードルが残されています。業界関係者は、この法案が成立すれば機関投資家の参入を促す「水門が開く」と期待していますが、その期待が現実になるかどうかは、これらの政治的な交渉の行方にかかっています。
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