ワクチン行政の「崩壊」を裁判所が止めた日
ケネディ保健長官が断行したワクチン接種スケジュールの大幅削減と専門家委員会の解体。連邦裁判所が一時差し止め命令を下した今、米国の公衆衛生行政はどこへ向かうのか。
「科学は、信じたいことを信じる自由を与えてくれない」――天文学者カール・セーガンのこの言葉が、45ページに及ぶ連邦裁判所の判決文の冒頭を飾った。
2026年3月17日、米連邦地方裁判所のブライアン・マーフィー判事は、ロバート・F・ケネディ・ジュニア保健福祉長官が就任以来断行してきたワクチン政策の大半に対し、一時差し止め命令を発令した。判事がセーガンの言葉を引用したのは、偶然ではないだろう。
何が起きたのか:3つの「前例なき措置」
問題の発端は、ケネディ長官が就任直後に取った一連の行動にある。
まず、疾病予防管理センター(CDC)の予防接種諮問委員会(ACIP)から、専門家メンバー17名全員を解任した。ACIPは数十年にわたり、科学的根拠に基づいてワクチン接種の推奨内容を策定してきた組織だ。その後任として任命された新メンバーのほぼ全員が、反ワクチン的な見解を持つとされており、標準的な審査プロセスを経ていないと指摘されている。
次に、新メンバーによって行われたACIPの投票を通じ、連邦のワクチン接種指針を変更した。そして今年1月、ACIPへの諮問を経ることなく、子どもの推奨ワクチン接種スケジュールを17種類から11種類へと大幅に削減した。削減後の数はデンマークの基準と同水準だという。
これら一連の措置に対し、米国小児科学会をはじめとする複数の医療団体が「標準的手続きを無視し、科学的根拠を欠く」として提訴。今回の一時差し止め命令は、その訴訟から生まれた。
なぜ今、この判決が重要なのか
ACIPが設立されたのは1964年。以来60年以上、政権が変わるたびに政治的圧力にさらされながらも、科学的専門性を軸に機能してきた。その委員会が一夜にして解体され、反ワクチン的立場の人物で埋め尽くされたことの意味は、単なる人事問題ではない。
米国では麻疹(はしか)の感染者数が近年増加傾向にある。公衆衛生の専門家たちは、ワクチン接種率の低下が感染症の再流行を招くリスクを長年警告してきた。今回の接種スケジュール削減が実施に移されれば、その懸念がより現実味を帯びる。
一方、ケネディ長官側の主張も単純に切り捨てることはできない。「米国の子どもは他の先進国と比べてワクチンを打ちすぎている」「製薬業界との癒着が推奨内容を歪めてきた」――こうした問いかけは、一部の保護者や研究者の間で長く燻ってきた疑念でもある。ただし、その主張を政策に反映させる方法として、専門家委員会の解体と非公式な指針変更が適切だったかどうかは、別の問題だ。
日本社会にとっての「他人事ではない」理由
日本でも、ワクチン行政は繰り返し政治と科学の緊張関係にさらされてきた。子宮頸がんワクチン(HPVワクチン)の積極的勧奨が2013年から2022年まで約9年間停止されたことは、その最たる例だ。副反応への懸念が先行し、科学的根拠に基づく政策判断が後退した結果、日本では同世代の女性と比較して子宮頸がんの罹患率が高止まりしているとの指摘がある。
今回の米国の事例が示すのは、「誰が科学的判断を下すのか」という問いの重さだ。専門家委員会の独立性が損なわれたとき、何が失われるのか。そして、その損失はどのように回復できるのか。
米国では今後、ケネディ長官が任命した委員会メンバーの資格審査や、変更された指針の科学的妥当性が改めて問われることになる。日本の厚生労働省や予防接種・ワクチン分科会のあり方を考える上でも、この裁判の行方は参照に値する。
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