原油100ドル超え、湾岸が戦場と化す日
イランが米国・イスラエルの攻撃に報復し、バーレーン国営石油会社が不可抗力を宣言。原油価格は1バレル100ドルを突破。日本経済・エネルギー安全保障への影響を多角的に分析する。
午前3時15分、ドーハ市内に警報が鳴り響いた。数分後、迎撃ミサイルが夜空を切り裂く爆発音が12〜13回、立て続けに轟いた。湾岸の人々にとって、その夜は「平時」が終わった夜として記憶されるかもしれない。
2026年3月9日、イランは湾岸諸国に展開する米軍資産を標的に、ミサイルとドローンによる大規模攻撃を継続した。バーレーンの国営エネルギー企業Bapcoは、自社製油所が攻撃を受けたことを受け、出荷に関する不可抗力(フォース・マジュール)を宣言。サウジアラビアはシャイバー油田に向かう無人機4機を迎撃し、アラブ首長国連邦(UAE)、カタール、クウェートでもミサイル攻撃が報告された。サウジアラビアのアル・ハルジュ県では民間地域に飛翔体が落下し、少なくとも2人が死亡、12人が負傷した。
この一連の攻撃は、2月28日に始まった米国・イスラエルによるイラン攻撃への報復である。イスラエルとアメリカの連合攻撃ではイランで少なくとも1,255人が死亡。同日、イスラエルはアリー・ハーメネイー最高指導者を殺害し、息子のモジュタバー・ハーメネイーが後継者に指名された。イスラエル国防相は新最高指導者も「標的になる」と警告しており、戦火の拡大が懸念される。
原油100ドルの衝撃——日本が直面するコスト
湾岸の空が閉鎖され、石油施設が炎に包まれる中、国際原油価格は1バレル100ドルを突破した。ロシアのウクライナ侵攻以来、初めてのことだ。
日本にとって、この数字は他人事ではない。日本は石油消費量の約90%以上を中東に依存しており、湾岸の不安定化は直接的なエネルギーコストの上昇を意味する。電気代、ガソリン価格、物流コスト——あらゆる場面で家計と企業収益を圧迫する構造だ。
トヨタや日産などの自動車メーカーは、すでに半導体不足や円安による原材料高騰に苦しんできた。原油高が重なれば、製造コストと輸送費の二重負担が経営を直撃しかねない。エネルギー集約型の素材・化学産業も同様だ。一方、INPEXなど日本の資源開発企業にとっては、原油高が収益改善の追い風になるという側面もある。影響は業種によって大きく異なる。
ドナルド・トランプ米大統領は原油価格の急騰を「イランの核の脅威を取り除くための小さな代償」と一蹴したが、日本政府にとってその「小さな代償」は、エネルギー補助金の再拡充を迫る政治的圧力になりかねない。
「裏切られた」——湾岸諸国の怒りと動揺
今回の攻撃で注目すべきは、イランが攻撃対象とした国々の多くが、この戦争への不参加を明言していた点だ。
カタールの首相シェイク・モハンマド・ビン・アブドゥルラフマーン・アール・サーニーは英スカイニュースのインタビューで、「戦争が始まった直後に攻撃を受けた。これはイランの指導部による大きな裏切りだ」と語った。カタールはイランとの外交チャンネルを維持しながら、停戦の仲介を模索してきた国だ。その国が攻撃された事実は、外交的解決の空間がいかに狭まっているかを示している。
サウジアラビア外務省は「いかなる状況においても容認・正当化できない」と強く非難。レバノンではヒズボラがイスラエル軍と交戦を続け、390人以上が死亡している。イスラエルでもイランのミサイル攻撃で10人が死亡、約2,000人が負傷した。
戦線は中東全域に広がりつつある。米国務省は非緊急要員にサウジアラビアからの退避を命令しており、米国自身も長期戦を想定し始めているとみられる。トランプ大統領はイスラエルのネタニヤフ首相との協議を経て「適切なタイミングで決断する」と述べるにとどまり、停戦の見通しは不透明なままだ。
核問題という「もう一つの戦場」
戦火の陰で、もう一つの重要な問題が静かに進行している。国際原子力機関(IAEA)のラファエル・グロッシ事務局長は、イランが高濃縮ウランの製造を継続していることを認めつつも、「核兵器を製造するための組織的・継続的なプログラムが存在するという証拠や兆候は現時点でない」と述べた。
この発言は重要だ。米国とイスラエルが攻撃の大義として掲げる「核の脅威」に対し、国際機関のトップが慎重な見解を示したことになる。日本は非核三原則を掲げ、核不拡散体制の維持を外交の柱の一つとしてきた。IAEAの見解と米国の軍事行動の間の乖離は、日本外交にとっても微妙な立場を生む。
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