アメリカ大統領を目指す男たちの「父親問題」
ギャビン・ニューサム回顧録が明かす、権力者たちの共通点。父親との複雑な関係が政治的野心にどう影響するのか。
47歳のカリフォルニア州知事ギャビン・ニューサムが出版した回顧録『Young Man in a Hurry』は、単なる政治家の自伝ではない。それは、アメリカの権力者たちを突き動かす深層心理を浮き彫りにする、興味深い心理学的ケーススタディでもある。
なぜなら、近年のアメリカ大統領たちには共通点があるからだ。ビル・クリントンは父親を生前に失い、アルコール依存症の義父のもとで育った。ジョージ・W・ブッシュは父親の巨大な影に悩まされ、弟のジェブまでもが大統領選に挑戦した。バラク・オバマは「肌の色以外何も残さなかった」父親に生涯悩まされ続けた。ドナルド・トランプの父親は冷酷で支配的だった。
特権と不安の狭間で
ニューサムの場合、父親のビル・ニューサムは「聖人に近い」存在だったという。しかし、この回顧録の中心テーマは、父親の感情的な距離感だ。ビルは息子が幼い頃に家族をサンフランシスコに残し、320キロ離れたタホ湖に移住した。読書家の父親に対し、幼いギャビンは診断されていない失読症に苦しんでいた。
さらに興味深いのは、ニューサム家と石油王ゲッティ家との関係だ。ビル・ニューサムは学生時代から石油相続人のゴードン・ゲッティと親友だったが、同時に彼の従業員でもあった。この微妙な立場は、若いギャビンに深い影響を与えることになる。
「ゴードン」と呼んだ8歳の姉に対し、ゲッティは「ミスター・ゲッティだ」と冷たく訂正した。泣き出した娘を慰めるべき父親は、何も言わなかった。「当時の父の沈黙を理解できなかった」とニューサムは振り返る。「それは誇りを飲み込むこと、父親としての義務の放棄のように見えた」
「宮廷人」として生きる代償
ニューサムの初期のビジネス成功も、ゲッティ家とのコネクションに依存していた。友人のビリー・ゲッティとワインショップPlumpJackを開業する際、ゴードンから投資を受け、店名も彼のオペラから取った。しかし1999年、ビリーとの友情は金銭問題で破綻する。
この経験を通じて、ニューサムは重要な気づきを得る。ゲッティ家との関係は「百万長者のライフスタイル」を提供してくれるが、同時に「宮廷人」として生きることを要求していた。父親が歩んだのと同じ道を、自分も歩んでいたのだ。
政治キャリアも同様だった。サンフランシスコ市長のウィリー・ブラウン(父親の友人)に駐車・交通委員会の委員長に任命された際、ニューサムは映画委員会への任命だと勘違いしていた。市議会への最初の任命も、ブラウンによるものだった。
日本社会への示唆
日本の読者にとって、この物語は特に興味深い示唆を含んでいる。日本企業の世襲経営や、政治家の世襲制度との類似点が見えてくるからだ。トヨタの豊田家、ソニー創業家族の影響力、そして日本の政治家の3世、4世議員の存在。
しかし、アメリカと日本では「父親問題」の現れ方が異なる。アメリカの政治家たちが父親の承認を求めて権力を追求するのに対し、日本では家族の期待に応える形での継承が一般的だ。ニューサムの場合、父親は2018年の州知事当選という夢の実現を見届けながらも、臨終の際に「愛している」という言葉を口にできなかった。
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