パキスタンの板挟み:イランと湾岸諸国の間で揺れる防衛協定
イラン最高指導者暗殺を受けて、パキスタンはサウジアラビアとの防衛協定とイランとの関係の間で困難な選択を迫られている。日本の中東外交への示唆も。
2月28日、イランの最高指導者ハメネイ師が米国・イスラエルの攻撃で暗殺された。この衝撃的な出来事は、900キロメートルにわたってイランと国境を接するパキスタンを、極めて困難な立場に追い込んでいる。
パキスタンが直面しているのは、昨年9月に締結したサウジアラビアとの相互防衛協定と、隣国イランとの関係維持という、相反する二つの要求だ。
試される防衛協定の真価
昨年9月17日、パキスタンのシャリフ首相とサウジアラビアのムハンマド皇太子が署名した戦略的相互防衛協定は、「一方への攻撃は両国への攻撃とみなす」というNATO第5条に類似した条項を含んでいる。
この協定は、イスラエルが昨年9月にドーハのハマス関係者を攻撃し、湾岸協力会議(GCC)諸国が米国の安全保障への信頼を失った直後に締結された。核保有国パキスタンは既に1,500~2,000人の軍人をサウジアラビアに駐留させており、数十年にわたる軍事関係を正式に格上げしたのだ。
しかし、イランの報復攻撃が湾岸諸国に及ぶ中、この協定は想定外の試練に直面している。3月6日早朝、サウジアラビアはプリンス・スルタン空軍基地を標的とした3発の弾道ミサイルを迎撃。その数時間後、パキスタンのムニル陸軍参謀長がリヤドでサウジの国防相と会談し、「相互防衛協定の枠組み内での対策」を協議した。
外交の綱渡り
パキスタンのダル副首相兼外相は、リヤドでのイスラム協力機構会議中に「シャトル外交」を展開。イランのアラグチ外相に対し、「われわれはサウジアラビアと防衛協定を結んでおり、全世界がそれを知っている」と直接伝えた。
一方で、サウジアラビアからはイランを攻撃しないとの保証を取り付け、この水面下の交渉がイランの攻撃規模を抑制したと主張している。実際、イランのエナヤティ駐サウジ大使は「サウジアラビアが領空や領土をイランに対する攻撃に使用させないと繰り返し表明していることを評価する」と述べた。
だが、こうした外交努力にもかかわらず、攻撃は続いている。パキスタンの綱渡り外交は限界に近づいているのかもしれない。
国内の複雑な現実
パキスタンが単純にイランを敵視できない理由は明確だ。2億5,000万人の人口の15~20%を占めるシーア派住民は、ハメネイ師暗殺後の抗議デモで23人が死亡するなど、激しく反発している。
さらに深刻なのは、イラン革命防衛隊が訓練・資金提供するザイナビヨン旅団の存在だ。パキスタン系シーア派民兵組織として数千人を擁し、シリア内戦で実戦経験を積んでいる。2024年に正式に禁止されたが、そのネットワークは残存している。
イスラマバードの安全保障アナリスト、アミル・ラナ氏は警告する。「イランはパキスタンのシーア派組織に大きな影響力を持っている。バルチスタン州は既に非常に不安定な地域だ。対立が深刻化すれば、パキスタンへの影響は深刻になるだろう」
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