NATOから追放できる?米国の「脅し」が同盟を揺るがす
米国がスペインのNATO資格停止を検討しているとの報道が波紋を呼んでいます。NATOの設立条約に「追放規定」は存在せず、欧州各国は冷静な反応を示していますが、同盟の結束に深刻な亀裂が生じています。
同盟とは何か。共通の価値観か、それとも利益の取引か。ドナルド・トランプ政権が発したとされる一通の内部メモが、その問いを再び世界に突きつけています。
「追放」という言葉が飛び交った一週間
2026年4月、ロイター通信が米国防総省の内部メールの存在を報じました。その内容は、イランへの攻撃作戦に十分な協力をしていないと米国が判断した同盟国に対し、制裁的措置を検討するというものでした。名指しされたのはスペインです。
スペインは、自国領土内にあるロタ海軍基地とモロン空軍基地の使用を拒否しました。ペドロ・サンチェス首相は「国際法の枠組みの中でのみ、同盟国との完全な協力を支持する」と述べ、メールの存在自体を「公式文書ではない」として一蹴しました。
これに対し、NATOの広報担当者はBBCに対し、設立条約である北大西洋条約には「加盟国の資格停止や追放を定めた条項は存在しない」と明言しました。法的には、米国が望んでもスペインをNATOから外す手段はないのです。
さらにこのメールには、フォークランド諸島(アルゼンチンでは「マルビナス諸島」)に関する英国への外交支持を見直すという提案も含まれていたとされます。1982年の英亜戦争以来、米国は英国の領有権主張を支持してきましたが、それを交渉カードとして使う可能性を示唆したものです。
なぜ今、この亀裂が表面化したのか
背景には、2026年2月に米国とイスラエルがイランを攻撃したことがあります。イランはその報復として、世界の原油輸送の約20%が通過するホルムズ海峡を封鎖しました。トランプ大統領はNATO同盟国に対し、この封鎖解除作戦への参加を求めましたが、スペイン、そして一部の欧州諸国は消極的な姿勢を崩しませんでした。
英国のキア・スターマー首相は「イランとの戦争や現在の米国による港湾封鎖への関与は英国の国益にならない」と述べつつも、英国領の基地からの米軍の攻撃使用は認め、英空軍機もイランのドローン迎撃任務に参加しています。協力の「程度」をめぐる綱引きが続いているわけです。
トランプ大統領は先月、NATOを「一方通行」と呼び、「我々は彼らを守るが、彼らは何もしない」と投稿しました。国防総省報道官のキングスレー・ウィルソン氏は「米国がNATO同盟国のためにしてきたことにもかかわらず、彼らは我々のそばにいなかった」と述べ、大統領に「信頼できる選択肢」を提供すると示唆しました。
一方、イタリアのジョルジャ・メローニ首相はEUサミットで「NATOは強さの源泉だ」と述べ、欧州の結束を訴えました。ドイツ政府報道官は「スペインはNATOの加盟国であり、それが変わる理由は見当たらない」と冷静に述べています。
日本にとって、これは「対岸の火事」ではない
この出来事を日本から眺めると、ある不安が浮かび上がります。日本も日米安全保障条約に基づき、米軍基地を国内に受け入れています。在日米軍基地は50か所以上に及び、その戦略的重要性はスペインのそれと無関係ではありません。
問われているのは、「同盟国は米国の軍事作戦に無条件で協力すべきか」という根本的な問いです。日本は憲法上の制約から、集団的自衛権の行使には一定の歯止めがあります。もし将来、台湾海峡や東シナ海をめぐる危機において米国が日本に対し、今回のスペインと同様の「踏み絵」を迫ったとしたら、日本はどう答えるのでしょうか。
スペインのケースは、「基地を提供することと、作戦に参加することは別物だ」という立場を示しました。しかし米国側は、その区別を認めようとしていません。この論理が定着すれば、日本の安全保障政策の選択肢も、静かに狭まっていく可能性があります。
また、ホルムズ海峡の封鎖は日本経済に直接的な打撃を与えます。日本が輸入する原油の約90%は中東を経由しており、海峡封鎖が長期化すれば、エネルギーコストの急騰、物価上昇、そして製造業への打撃は避けられません。トヨタやソニーをはじめとする輸出企業にとっても、世界的なサプライチェーンの混乱は無視できないリスクです。
記者
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