SpaceXが603億円のビットコインを保有する理由
SpaceXが約5000億円の損失を抱えながらも、603億円相当のビットコインを売却しない。IPOを控えた宇宙企業の大胆な財務戦略が問いかけるものとは。
赤字企業が、なぜ603億円の「不安定な資産」を手放さないのか。
2026年4月、宇宙開発企業SpaceXが2025年度の決算で約5,000億円(49億ドル)の損失を計上したことが明らかになった。前年は約8,000億円(80億ドル)の黒字だったことを考えると、わずか1年での急転落だ。しかし同社は、Coinbase Primeに預けている8,285BTC(約603億円相当)を一切売却していない。
なぜ、赤字の企業が600億円超の暗号資産を保有し続けるのか。その答えを探ると、単なる財務判断を超えた「ビットコインという思想」が見えてくる。
損失の正体:xAIという「コスト爆弾」
2025年のSpaceXの売上高は185億ドル(約2兆7,000億円)と前年比で増収だった。問題は費用側にある。イーロン・マスクが2025年2月に買収したAIベンチャーxAIの統合コストが売上を上回る水準に膨らみ、収益を一気に押し下げた。
つまり、宇宙ビジネス本体は成長しているにもかかわらず、マスク氏の「AI帝国構築」という野望がSpaceXの財務諸表に直撃した形だ。宇宙事業とAI事業を一人の人物が同時に経営することのリスクが、数字として可視化された瞬間でもある。
日本の投資家にとって馴染み深い例で言えば、かつてソフトバンクグループがビジョンファンドの投資損失で本業の通信事業の利益を吹き飛ばした構図と似ている。「本業は強いのに、オーナーの夢が財務を揺さぶる」というパターンだ。
「売らない」という意思表示
ブロックチェーン分析会社Arkham Intelligenceのデータによると、SpaceXのビットコイン保有量は2024年半ば以降ほぼ変化がない。直近の動きは約4ヶ月前の社内ウォレット間のリバランス(614BTCと1,021BTCの移動)のみで、外部への売却は確認されていない。
2025年10月のビットコイン最高値時には、同社の保有資産は16億ドル(約2,300億円)超に達していた。現在の603億円という評価額は、ピーク時から大幅に下落した水準だ。それでも売らない。
この「不動」の姿勢は、マイクロストラテジー(Strategy)、Marathon Digital、Riot Platformsに次ぐ企業ビットコイン保有量第4位という地位と合わせて、一つのメッセージを発している。「ビットコインは売るものではなく、持ち続けるものだ」という宣言だ。
IPOが変える「開示」の意味
ここに、もう一つの重要な文脈がある。SpaceXはIPO(新規株式公開)を準備中であり、先月その申請を行ったとCoinDeskが報じた。上場すれば、ビットコイン保有が初めて公式な財務書類に記載される。
2025年末に施行されたFASB(米国財務会計基準審議会)の新ルールにより、企業は保有する暗号資産を時価評価しなければならなくなった。これは、ビットコインの価格変動がSpaceXの四半期決算に直接反映されることを意味する。
日本企業への示唆もここにある。メタプラネットなど日本でもビットコインを財務資産として保有する企業が増えているが、国際的な会計基準の変化は日本基準にも影響を与えうる。「暗号資産を持つ」ことの財務的な意味が、今後ますます問われるようになるだろう。
勝者と敗者:この戦略は誰に有利か
SpaceXの戦略を冷静に評価すると、立場によって見え方は大きく異なる。
既存株主の視点では、赤字局面でリスク資産を保持し続けることへの不安は拭えない。一方、ビットコイン支持者の目には「真の信念」の証明として映る。IPO後の新規投資家にとっては、ビットコインの価格変動が投資リターンに直結するという新たなリスク要因になる。
規制当局の視点では、宇宙インフラを担う企業が暗号資産を大量保有することへの懸念もあり得る。日本の金融庁が暗号資産規制の整備を進める中、こうした海外企業の動向は参考事例として注視されるはずだ。
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