英国チャレンジャー銀行が預金をトークン化——日本の金融界が見るべき「本番」
英国のMonument Bankが最大2億5000万ポンドの個人預金をパブリックブロックチェーンでトークン化。預金保護制度を維持しながら規制の枠内で進める今回の動きは、日本の金融機関にとっても無視できない先例となりつつある。
銀行口座の残高が、ブロックチェーン上のトークンとして動く日が来たとしたら——それは今、英国で静かに始まっている。
Monument Bankは2026年3月25日、個人顧客の預金を最大2億5000万ポンド(約335億円相当)分、パブリックブロックチェーン「Midnight」上でトークン化する計画を発表しました。英国の規制銀行がパブリックブロックチェーンで個人預金をトークン化するのは、これが初めてのケースです。
「預金がトークンになる」とはどういうことか
一見すると難解に聞こえますが、仕組みはシンプルです。Monument Bankの顧客が保有する預金残高を、ブロックチェーン上のデジタルトークンとして「鏡写し」にする——それが第一フェーズの内容です。
重要なのは、これが既存の預金保護を一切損なわないという点です。トークン化された預金は引き続き利息が付き、ポンドと1対1で交換可能。そして英国の預金保護制度(FSCS)の対象も維持されます。日本の預金保険制度に相当するものが、そのまま適用されるわけです。
対象顧客は、投資可能資産が5万ポンドから500万ポンドの「マス・アフルエント層」と呼ばれる富裕層手前の個人投資家たち。Monumentはすでに10万人超の顧客と約70億ポンドの預金残高を抱えており、決して小さな実験ではありません。
ブロックチェーン基盤を提供するのはMidnight Foundation。これはCardanoの創設者が関わるInput Outputの系列企業が開発したプライバシー重視のネットワークで、取引データは銀行と顧客のみが閲覧できる設計となっています。
なぜ今、この動きが重要なのか
トークン化された金融資産の議論は、これまで主に機関投資家向けや閉じたネットワーク内での話でした。JPモルガンやシティバンクが試みてきた実験の多くも、企業間決済や国債の領域に限られていました。
しかし今回のMonumentの動きには、二つの点で異なる意味があります。
一つは「個人預金」という領域に踏み込んだこと。金融システムの最も基礎的な部分——普通の人々の貯蓄——をブロックチェーンに乗せようとしているのです。
もう一つは「BaaS(Banking-as-a-Service)」への展開です。Monument Technologyは、このトークン化預金機能を他の金融機関にも提供するプラットフォームを構築する予定だと発表しています。つまり、Monumentが成功すれば、そのモデルが業界標準として広がる可能性があります。
日本の金融機関にとって、これは対岸の火事ではありません。三菱UFJやみずほも独自のデジタル通貨・トークン化資産の研究を進めていますが、規制の枠内で個人預金を対象にしたパブリックブロックチェーン活用という点では、英国が先行しています。
懸念と反論:「本当に安全なのか」
もちろん、懐疑的な見方もあります。
プライバシーの問題は依然として残ります。Midnightネットワークはプライバシー保護を謳っていますが、パブリックブロックチェーンである以上、完全な匿名性の保証は難しい。日本の個人情報保護の文脈では、これは特に敏感な問題です。
また、技術的なリスクも無視できません。スマートコントラクトの脆弱性、ブロックチェーンネットワーク自体の障害——こうした問題が発生した際、既存の預金保護制度がどこまで機能するかは、まだ法的に検証されていない領域です。
さらに、Monumentはチャレンジャーバンクとして比較的新しい存在。伝統的な大手銀行とは異なる信用基盤の上に成り立っています。同じモデルを三菱UFJやゆうちょ銀行が採用するには、規制当局との対話から始める必要があるでしょう。
日本の金融界への示唆
日本銀行はデジタル円(CBDC)の実証実験を続けており、金融庁もステーブルコインの規制整備を進めています。しかし「民間銀行が個人預金をパブリックブロックチェーンで管理する」という領域は、まだ日本では手つかずに近い状態です。
興味深いのは、Monumentが目指す次のフェーズです。トークン化された預金を担保に、プライベートマーケットファンドや商品ファンドへの投資、さらにはアプリ内での融資——これらが実現すれば、銀行アプリは単なる残高確認ツールから、資産管理のハブへと変貌します。
日本の高齢化社会において、資産を持ちながらも運用に不慣れな「マス・アフルエント層」は膨大な規模で存在します。この層に対して、トークン化預金を入口にした総合資産管理サービスを提供するというビジネスモデルは、日本市場にも十分な可能性があります。
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