メキシコ麻薬カルテル幹部殺害で暴力激化、グローバル企業への波及懸念
メキシコ治安部隊によるカルテル幹部殺害を受け各地で報復攻撃が激化。日系企業を含む多国籍企業の事業継続リスクが高まる
47社の日系企業が進出するメキシコで、新たな治安危機が始まっている。
カルテル幹部殺害が引き金に
メキシコ治安部隊が麻薬カルテルの有力幹部を殺害した直後、全国各地で報復攻撃が相次いでいる。シナロア・カルテルやハリスコ新世代カルテルなどの主要組織が関与するとみられ、これまでに民間人を含む数十人の死傷者が確認されている。
特に製造業の集積地である北部バハ・カリフォルニア州やチワワ州では、工場への襲撃や幹線道路の封鎖が発生。トヨタや日産などの自動車メーカーが一時的に操業を停止する事態となった。
現地の日本商工会議所は「従業員の安全確保を最優先に対応している」と声明を発表したが、具体的な被害規模は明らかになっていない。
「安価な隣国」の代償
メキシコは長年、米国市場への輸出拠点として日本企業に重宝されてきた。人件費は中国の3分の1、米国への輸送コストも大幅に削減できるためだ。
しかし今回の暴力激化は、この「地理的優位性」が同時に「地政学的リスク」でもあることを浮き彫りにした。米墨国境地帯は麻薬密輸の最前線であり、カルテル間の縄張り争いが絶えない。
ソニーは2019年にティファナ工場を閉鎖した際、「治安悪化による操業コスト増」を理由の一つに挙げている。一方でパナソニックや三菱電機は現地投資を拡大しており、企業間で判断が分かれている。
日本企業の「リスク許容度」
興味深いのは、同じような治安リスクに直面しても、日本企業の対応が一様でないことだ。
製造業に詳しいアナリストは「日本企業は一般的にリスク回避的だが、メキシコについては『米国市場アクセス』という明確なメリットがあるため、相当な治安悪化まで撤退しない傾向がある」と分析する。
実際、2006年から2012年の「麻薬戦争」で年間2万人以上が死亡した時期でも、多くの日系企業は操業を継続した。当時と比べ現在の治安状況は改善しているものの、今回の暴力激化がどの程度まで拡大するかが焦点となる。
政府の「強硬策」は逆効果か
メキシコ政府は麻薬組織に対する強硬策を続けているが、専門家の間では効果を疑問視する声も多い。
「カルテル幹部を殺害しても、組織は分裂して暴力がより拡散する傾向がある」と指摘するのは、ラテンアメリカ情勢に詳しい研究者だ。実際、過去20年間で政府が「勝利」を宣言した麻薬組織の多くが、より小規模で予測困難な集団に分かれて活動を継続している。
一方、現地で事業を展開する多国籍企業は、政府の治安政策よりも「予測可能性」を重視する。突発的な暴力よりも、長期的な安定性の方が投資判断により大きな影響を与えるからだ。
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