豆腐を食べる男は「男らしくない」のか
栄養インフルエンサーが豆腐を食べた動画を投稿したところ、数十万件の批判コメントが殺到した。「肉を食べる男こそ本物の男」という信仰はどこから来るのか。食と男性性の深い関係を探る。
豆腐を一丁調理しただけで、17万人のフォロワーを持つ男性が「女々しい」と罵倒される時代がある。
2026年の今、それはインターネット上で起きている、ごく日常的な光景だ。
「ソイボーイ」と呼ばれた栄養士
ジェイコブ・スミスは、24歳の栄養インフルエンサーだ。修士号を持ち、Instagramで17万人のフォロワーに「エビデンスに基づく栄養学」を発信している。筋肉質な体格で、いわゆる「マッチョ」なイメージに近い男性だ。
今年1月、彼は植物性食品の健康効果に関する研究を読み、少し試してみようと思った。そこで動画を撮影したのが、豆腐の調理シーンだった。
反応は二分した。豆腐の調理法を親切に教えてくれるコメントがある一方、大量の批判が押し寄せた。「ソイボーイ(大豆男)」という侮辱語とともに、「エストロゲンが増えて女になる」「声が女っぽくなった」「ゲイになるぞ」といったコメントが溢れた。
スミスは逆にこれを面白がり、「ソイボーイ・クロニクルズ」と名付けたシリーズを開始。セイタンやテンペなど様々な植物性タンパク源を試す動画を続けた。各動画は数十万回再生を記録したが、批判コメントも増え続けた。
そして数週間後、彼のInstagramアカウントは突然停止された。Metaからの通知には「危険な人物や組織を支持している」という理由が記されていたという。スミスは政治的な発言も暴力的な内容も投稿していない。Metaは「適切な対応だった」と述べるのみで、具体的な理由を明かしていない。現在、彼はTikTokでシリーズを続けているが、そこでのコメントはさらに過激だという。
「本物の男は肉を食べる」という信仰の起源
この現象は、スミス個人の問題ではない。ベルギーのアントワープ大学で食と消費者コミュニケーションを研究するエリナ・フライセンは、「彼は典型的に男らしいと見られていた。でも植物性の食事を食べることで、その男らしさの境界線を越えてしまった」と説明する。
研究によれば、欧米社会において:
男性は女性より多くの肉を食べ、肉をより好むと報告している。男性的規範に強く同調する男性ほど、肉の消費量が多く、肉の削減に消極的だ。そして男女ともに、肉を「男性的」、野菜を「女性的」と関連付ける傾向がある。
この信仰の文化的ルーツは、1950年代に始まった性別ターゲティング広告にある。バーガーキングの2006年のCMでは、男性が「チック・フード(女性向けの食べ物)」を拒否してバーガーへと向かい、「男らしく食べろ、男よ」というメッセージで締めくくられた。植物性食品メーカーでさえ、「男性的なイメージ」を使って自社商品をマーケティングすることがあるとフライセンは指摘する。製品は変わっても、「男らしさ」を訴求するロジックは変わらないのだ。
より深いところには、人類学の「マン・ザ・ハンター(狩猟する男)」理論がある。1968年の同名の影響力ある著書を含む一連の研究が、「原始時代、男性は狩猟を担い、女性は採集と育児をした」という性別分業論を確立した。この理論が、「男性=肉=力強さ」というイメージの学術的な根拠とされてきた。
女性も狩猟していた——揺らぐ「常識」
しかし近年、この「常識」に疑問を呈する研究者が増えている。
デラウェア大学のサラ・レイシーとノートルダム大学のカラ・オコボックは2023年、学術誌『American Anthropologist』に論文を発表し、「狩猟の多くは混性グループで行われており、女性も積極的に参加していた」と論じた。
注目すべきは、女性が持つ高いエストロゲンレベルが、持久力を要する狩猟に有利に働く可能性があるという指摘だ。「運動中、エストロゲンは体が炭水化物より先に脂肪をエネルギーとして使うよう促す。脂肪はカロリー密度が高く、ゆっくり燃焼するため、持久活動中の疲労を遅らせる」と両者は説明する。つまり、エストロゲンこそが狩猟の武器だった可能性があるのだ。
考古学的証拠も積み重なっている。狩猟道具とともに埋葬された先史時代の女性の遺骨、そして男女が同程度の頻度で動物と対峙していたことを示すネアンデルタール人の遺跡などだ。
レイシーによれば、この研究発表後、インターネット上で激しい反発が起きた。「狩猟が男性だけの特別な行為ではないと示唆されたことに、主に男性が強く反応した」という。Scientific American誌に寄稿した後、同誌はレイシーとオコボックにカウンセリングを提供するほど、特にTwitter上での反応は激烈だった。
植物性食品と「男らしさ」の新しい形
一方、プロのアスリートたちの間では、植物性食品を積極的に取り入れる動きが広がっている。NBAのカイリー・アービングとクリス・ポール、ストロングマンのパトリック・バブミアン、テニスのノバク・ジョコビッチ、UFC王者のジェームズ・ウィルクスなど、競技のトップに立つ男性アスリートたちが植物性食事を実践している。
ブラジリアン柔術の世界チャンピオン(11回)であるデビッド・マイヤーは、「企業が私たちをある方向に誘導しようとしているとき、自分で考える必要がある」と語る。彼は数十年前に動物性食品を食事から除き、それが自身の健康とパフォーマンスに良い影響を与えたと言う。
筋肉質な体を持つヴィーガンのコンテンツクリエイター、ドミニク・トンプソンは、男性性の本質を「保護すること」と定義する。「男らしさとは、弱者や傷つきやすい存在を守ることだ。それには動物も含まれる」と彼は言う。
ブリティッシュコロンビア大学の研究者ロブ・フェルゼボアは、菜食主義の男性の多くが自身のライフスタイルを「独立した思考」「規律」「自分の価値観に沿った行動」といった、伝統的な男性的規範の言葉で表現していることを発見した。つまり、植物性食品を選ぶことを「反骨」や「自立」として捉えることもできるのだ。
日本社会への問い
この議論は、日本にとっても無縁ではない。
日本は伝統的に、豆腐・納豆・味噌・豆乳など大豆製品を食文化の根幹に置いてきた。「男性が豆腐を食べること」に違和感を覚える日本人はほとんどいないだろう。むしろ、「男の豆腐飯」「男前豆腐店」など、豆腐と男性性を結びつけるブランドも存在する。
しかし近年、日本でも「プロテイン」ブームとともに動物性タンパク質への関心が高まり、筋トレ文化が広がっている。欧米発の「マッチョ=肉食」というイメージが、SNSを通じて若い世代に浸透しつつある側面もある。
一方で、環境の観点から見ると、日本は肉・乳製品の生産が全世界の温室効果ガスの最大5分の1を占めるという現実と向き合う必要がある。少子高齢化が進む日本社会において、持続可能な食の在り方は、単なるライフスタイルの問題ではなく、社会設計の問題でもある。
また、フェルゼボアの研究が示すように、植物性食品へのシフトを促すメッセージは、男性に対しては「健康効果」を前面に出す方が効果的だという。日本の食品企業や公衆衛生政策にとっても、示唆に富む知見だ。
本コンテンツはAIが原文記事を基に要約・分析したものです。正確性に努めていますが、誤りがある可能性があります。原文の確認をお勧めします。
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