「マッカーシーは正しかった」—米極右が蘇らせる1950年代の亡霊
トランプ政権下で影響力を持つ極右勢力が、冷戦時代の反共産主義者ジョセフ・マッカーシー上院議員の「名誉回復」を図っている。現代版マッカーシズムとは何か。
70年前、一人の上院議員の名前が「政治的魔女狩り」の代名詞となった。ジョセフ・マッカーシー—彼の手法は長らくアメリカ政治の「やってはいけないこと」の象徴だった。しかし今、トランプ政権の影響圏にいる極右勢力が、驚くべき主張を展開している。「マッカーシーは正しかった」と。
復活する「赤狩り」の論理
スティーブ・バノン、ローラ・ルーマー、ジャック・ポソビエック—トランプ周辺の影響力ある人物たちが、1950年代の反共産主義キャンペーンを「再評価」している。バノンは筆者との電話で「マッカーシーは私にとってヒーローだ」と断言し、「10倍のマッカーシズムが必要だ」と語った。
彼らの論理は単純だ。マッカーシーは当時、ソビエトのスパイが政府に浸透していると警告した。後に公開された文書で、実際に一定の浸透があったことが判明した。だから彼は「先見の明があった」というのだ。
しかし、この「名誉回復」には重大な問題がある。マッカーシーの手法は証拠なき告発と人格破壊だった。1950年、彼は「国務省に205人の共産党員がいる」と演説したが、その名簿を公開することはなかった。数字は後に57人、81人と変わったが、具体的証拠は示されなかった。
標的の拡大—「共産主義者」から「グローバリスト」へ
現代版マッカーシズムの恐ろしさは、標的の定義が大幅に拡大していることだ。オリジナルのマッカーシーは「外国勢力のスパイ」を追った。新しいマッカーシストたちは「政治的敵対者」全般を狙っている。
ポソビエックらの著書『Unhumans』では、「共産主義者」という言葉を「進歩主義者」「文化的マルクス主義者」と同義に使う。バノンは「グローバリスト」を標的に挙げ、その中にはジャレッド・クシュナー(トランプの娘婿)さえ含まれる。
更に衝撃的なのは、彼らが合法的な政治活動まで「反逆」と見なしていることだ。バノンは移民問題でICE(移民・関税執行局)に反対する州知事たちを「国家主権への攻撃」と批判した。つまり、憲法で保障された州の権限行使が「マッカーシズムの標的」になり得るのだ。
手法の過激化—「合法的大量説得兵器」の危険
ポソビエックは著書で「命名と恥辱化」戦術の復活を提唱し、赤狩り時代のブラックリスト再導入を求めている。彼はXで「全ての共産主義者を逮捕しろ」と投稿し、「共産主義者を秘密裏に拘束してグアンタナモに送る政策を支持する。実際、準備済みの名簿がある」と述べた。
これらの手法は明らかに違法だが、彼らは「合法的大量説得兵器」という曖昧な表現で正当化を図っている。バージニア大学の歴史学者デビッド・オースティン・ウォルシュは警告する。「もしこの新マッカーシズムが暴力的方向に向かえば、それはもはやマッカーシズムですらない—ただのファシズムだ」
歴史修正主義の政治的武器化
マッカーシー復権運動は、より大きな歴史修正主義の一部だ。極右勢力はマーティン・ルーサー・キング・ジュニアを否定的に描き直し、1960年代の公民権法を攻撃している。一部は啓蒙思想そのものを標的にしている。
ヴァンダービルト大学の歴史学者ニコル・ヘマーは指摘する。「これは権威主義と免責を正当化する歴史を構築しようとする試みだ」。マッカーシズムという言葉が曖昧に使われてきたため、復権論者たちは都合よく解釈を歪曲できる。
過去1年間を振り返れば—ジミー・キンメルの番組中止要求、ジャーナリストのドン・レモン逮捕、政敵の起訴、メディア・大学・法律事務所への民事訴訟—新しいマッカーシズムは既に始まっているのかもしれない。
記者
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