幻覚剤が「保守派の薬」になる日
トランプ大統領が署名したサイケデリクス研究促進の大統領令。その陰には、共和党員の弁護士とイボガインという謎の薬がある。政治と科学が交差する最前線を追う。
「これ、何て読むんだ?」——トランプ大統領は署名の場でそう言い、笑いながら付け加えた。「少し試してもいいか?」
2026年5月現在、米国の薬物政策に静かな地殻変動が起きています。LSDやマリファナを「ヒッピーの薬」として取り締まってきた保守派が、幻覚剤の医療利用を積極的に推進する側に回りつつあるのです。その震源地にいるのは、意外にも南部出身の共和党員弁護士、W・ブライアン・ハバード氏です。
大統領令の裏側にあった「一本の電話」
2025年4月のある土曜日の朝、トランプ大統領はサイケデリクスの研究加速を連邦機関に指示する大統領令に署名しました。その対象にはイボガインという薬が含まれていました。
ことの発端は、ポッドキャスト界の巨人、ジョー・ローガンの番組でした。ハバード氏と元テキサス州知事のリック・ペリー氏がゲストとして出演し、イボガインの可能性について語った直後、ハバード氏はローガンに頼みました。「大統領にイボガインのことを伝えてもらえないか」と。ローガンが連絡すると、トランプは「いいね。FDA承認が欲しいか?」と即答したとされています。
イボガインとは何か。それは中央・西アフリカに自生する低木、タベルナンテ・イボガから抽出される化合物です。ガボンでは「ブウィティ」という伝統的な成人式の儀礼に使われ、その体験は「一時的な死」と形容されるほど強烈なものです。12〜36時間続くトリップの間、人は自分の人生の場面を夢のように体験し、その後、深い内省と覚醒の状態に入るといいます。
オピオイド依存症への効果については、1962年にヘロイン依存症だったアメリカ人、ハワード・ロットソフ氏がイボガインを試したところ、渇望感が消えたと報告したことが起源です。しかし、それから60年以上が経った今も、米国内での大規模な臨床試験はほとんど行われていません。スタンフォード大学の研究では、メキシコのクリニックでイボガイン治療を受けた元特殊部隊の退役軍人の脳をスキャンしたところ、外傷性脳損傷やPTSDの症状が大幅に改善したと報告されましたが、対照群がなく、参加者も自ら費用を払って治療を求めた特殊なグループでした。
「保守派の幻覚剤」はなぜ生まれたか
ハバード氏の子ども部屋には、かつてロナルド・レーガンのポスターが貼ってありました。彼は幻覚剤について「ヒッピーが泥の中を裸で転げ回るための薬」という典型的な保守派の見解を持っていました。転機は2018年、サイエンティフィック・アメリカン誌でシロシビン(マジックマッシュルームの有効成分)のアルコール依存症治療研究を読んだことです。その後、彼は約4年間で12回のシロシビン体験をしたといいます。
2022年、ハバード氏はケンタッキー州のオピオイド和解基金委員会の委員長に就任しました。オピオイド企業からの和解金、約10億ドル(約1400億円)の配分を担う立場です。しかし住民集会を開くたびに聞こえてきたのは、「あなたたちには私たちを助ける能力も誠実さもない」という声でした。
新たな解決策を求めたハバード氏は、イボガインに出会います。彼が着目したのは、薬の効果だけではありませんでした。LSDやマジックマッシュルームと違い、イボガインは娯楽目的での使用が難しい——その過酷な身体的副作用のせいで。「イボガインを、先入観のない白紙の状態で紹介できる機会があると思った」と彼は語ります。
政治的な逆風もありました。2023年末、ケンタッキー州の新しい司法長官がイボガイン研究への公的資金投入に反対し、ハバード氏は委員会を追われました。しかし彼は諦めませんでした。2025年には元知事ペリー氏とともに非営利団体「アメリカンズ・フォー・イボガイン(AFI)」を設立。テキサス州で5000万ドル(約70億円)のイボガイン研究資金マッチング法案を成立させ、テネシー、ミズーリ、オクラホマなど赤い州(共和党優勢州)での立法活動を次々と成功させました。
科学と政治の危うい共存
この動きを医療・科学コミュニティはどう見ているのでしょうか。
米国精神医学会はトランプの大統領令に対し、「研究への連邦投資を歓迎する」としつつも、「承認された臨床試験の文脈以外で、精神疾患の治療にサイケデリクスを使用することを支持する科学的根拠は現在のところ不十分」と慎重な姿勢を示しました。ブリガム・アンド・ウィメンズ病院の依存症精神科医、ジョジ・スズキ氏は、「共和党の熱意が官僚的な研究障壁を取り除くなら、全面的に支持する」と言いつつも、党派的な支持が研究の信頼性を損なうリスクを懸念しています。「特定の薬が、現政権との政治的一致のためだけに承認されているという印象は避けたい」と彼は言います。
一方、かつてイボガインの治療承認は「ほぼ不可能」と発言していた米国立薬物乱用研究所の元所長、ノラ・ヴォルコウ氏が、2025年5月の米国精神医学会学術大会でイボガインについて肯定的な発言をしたと報告されています。専門家の見解も、少しずつ動いているようです。
デンバーの教会でハバード氏と取材を終えた記者は、もともと別の教会で取材する予定でした。しかし前日、その教会のスタッフから「ハバード氏の名前を検索したら、トランプやローガンとの関係が分かった。進歩的な会衆を傷つけたくない」として断られたといいます。ハバード氏はこのエピソードを「国がいかに分断されているか」の証拠だと言い、「だからこそサイケデリクスが国の魂を取り戻すために必要なのだ」と語りました。
本コンテンツはAIが原文記事を基に要約・分析したものです。正確性に努めていますが、誤りがある可能性があります。原文の確認をお勧めします。
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