イランの「影の指導者」ラリジャニ師が死亡――戦争はどこへ向かうのか
イスラエルがイランの最高安全保障責任者アリー・ラリジャニ師をテヘラン近郊への空爆で殺害したと発表。ホルムズ海峡封鎖と原油高騰が続く中、中東の戦火は新たな局面を迎えた。
最高指導者が死んでも、戦争は終わらなかった。では、「影の指導者」が死んだ今、何が変わるのだろうか。
2026年3月17日、イスラエル国防省のイスラエル・カッツ大臣は「アリー・ラリジャニとバスィージ司令官は昨夜排除された」と声明を発表しました。イスラエル軍(IDF)はテヘラン近郊への「精密攻撃」でラリジャニ師を殺害したと主張しています。イランの治安部隊・バスィージの司令官グラームレザー・ソレイマーニーも同じ夜の別の空爆で死亡したとされています。イラン当局は今のところ公式の確認も否定もしていません。
「ラリジャニとは何者か」を知らなければ、この事件は理解できない
アリー・ラリジャニは、単なる官僚ではありませんでした。イスラム革命防衛隊(IRGC)の元司令官として軍の論理を知り、国営放送IRIBのトップとして情報戦を熟知し、12年間にわたり国会議長を務めた政治家でもありました。イランの核交渉の首席交渉官として西側諸国とも渡り合い、「強硬保守派」でありながら「穏健保守」とも評された複雑な人物です。
転機は2026年2月28日でした。イスラエルと米国の共同攻撃によって最高指導者ハメネイ師が死亡し、ラリジャニ師は事実上の「体制の司令塔」となりました。ハメネイ師の息子モジュタバーが後継者に選ばれたものの、父親の死亡時の攻撃で負傷したとされ公の場に姿を現していません。その空白を埋めたのがラリジャニ師でした。彼はトランプ大統領の声明にSNSで応答し、先週金曜日にはテヘランのクッズ・デーの集会に姿を現し、「イスラエルと米国は恐怖から行動している」と述べていました。その3日後に彼は死亡しました。
IDFはラリジャニ師について「ハメネイ師の死後、イラン体制の事実上の指導者として対イスラエル戦闘を指揮した」と説明しています。また、昨年12月から今年1月にかけてイラン国内で起きた大規模抗議運動への弾圧を主導したとも指摘しており、「少なくとも6,508人の抗議者が殺害され、5万3,000人が逮捕された」と人権活動家は伝えています。
なぜ今、この死が重要なのか
この戦争が始まって以来、最も問われてきた問いは「イランは誰が指揮しているのか」でした。ハメネイ師の死後、体制は崩壊するどころか、ラリジャニ師という求心力を得て抵抗を続けました。イランはイスラエルと米軍施設を持つアラブ諸国にミサイルとドローンを発射し、ホルムズ海峡では生産停止と輸出妨害が相次ぎました。原油価格は急騰しています。
ここで日本にとって重要な現実があります。日本は原油輸入の約90%を中東に依存しており、ホルムズ海峡は文字通り「日本経済の動脈」です。トヨタや新日本製鉄をはじめとする製造業にとって、エネルギーコストの上昇は直接的な打撃となります。日本政府はすでにエネルギー安全保障の見直しを迫られており、LNG(液化天然ガス)の調達先多様化が急務となっています。
ネタニヤフ首相は「イランの人々がこの体制を取り除く機会を与えることを希望する」と述べました。この言葉は、軍事作戦の目的が「体制転換」にあることを示唆しています。しかし、指導者を次々と排除することで本当に体制は崩壊するのでしょうか。それとも、かえって抵抗の意志を強化するのでしょうか。
歴史はしばしば逆説的な答えを示してきました。2020年にイランのカセム・ソレイマーニー将軍が米国に暗殺された際、多くの専門家は「イランの軍事力は弱体化する」と予測しました。しかし実際には、イランは代理勢力を通じた影響力を拡大させていきました。今回も同じパターンが繰り返されるのか、それとも体制の求心力が本当に失われつつあるのか、まだ誰にも答えはわかりません。
異なる立場から見えるもの
テヘランの反体制派市民たちは、BBCペルシア語への匿名メッセージでラリジャニ師の死を歓迎しています。「彼らは犯罪者だ。血が手についている」という30代男性の言葉は、体制への深い憤りを示しています。しかし、インターネット遮断が続く中で、イラン国民の「本当の声」を外部から知ることは極めて困難です。
国際社会の反応も一枚岩ではありません。トランプ政権はイスラエルの軍事作戦を支持していますが、欧州各国は「民間人への影響と人道的コスト」への懸念を強めています。湾岸諸国は米軍施設へのイランの攻撃に直面しながらも、地域の安定を最優先に考えています。中国とロシアはこの混乱の中で独自の外交的立場を模索しています。
日本の立場はより複雑です。日米同盟の枠組みの中で米国の行動を支持しつつも、イランとは歴史的に比較的良好な関係を維持してきました。エネルギー安全保障と同盟義務のバランスをどう取るかは、岸田政権以降の課題として引き継がれています。
記者
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