イスラエルとレバノン、敵同士が必要とし合う逆説
ヒズボラという共通の課題を前に、イスラエルとレバノン政府は互いを必要としている。占領か協調か——歴史が示す教訓と、中東和平の新たな可能性を読み解く。
敵同士が、同じ目標を持つとき、何が起きるのか。
2026年3月、ヒズボラがイスラエルへの砲撃を再開した。イランの最高指導者がイスラエルの空爆によって死亡した後、「連帯」の名のもとに放たれた一斉攻撃だった。イスラエルは予測通り、激しい軍事行動で応じた。こうして、レバノンは再び——自国の意思とは無関係に——戦場となった。
停戦は成立した。しかし、根本的な問いは何一つ解決されていない。
歴史が繰り返す前に
レバノン南部は今、100万人以上の難民がベイルートや北部に流れ込み、多くの村が廃墟と化している。イスラエル軍が公表した地図には「黄色線」と呼ばれる深い緩衝地帯が描かれており、5個師団が停戦中も活動を継続するとされている。さらに、2022年に米国の仲介で合意した海上境界線を覆す新たな海洋緩衝ゾーンも示され、レバノンのカナ・ガス田へのアクセスが遮断される恐れがある。
ここで歴史を振り返る必要がある。1982年、イスラエルはPLO(パレスチナ解放機構)をレバノンから追い出すために侵攻し、2000年まで占領を続けた。その占領が生み出したのが、皮肉なことにヒズボラそのものだった。「安全保障のための占領」が、より危険な敵を育てた——この教訓を、イスラエルはいま再び試されている。
レバノン政府の「歴史的宣言」
砲撃の翌日、レバノンのナワフ・サラム首相は注目すべき声明を発した。ヒズボラの武装活動と兵器保有を「違法」と正式に指定する決定が、ほぼ全会一致で閣議決定されたのだ。ジョセフ・アウン大統領も外交団にこの方針を伝え、「恒久的かつ不可逆的」と明言した。
レバノン軍には武装解除の命令が下されたが、ルドルフ・ハイカル司令官はまだ全国規模の作戦命令を出していない。理由は内部の分裂だ。文民当局はヒズボラへの国民的反発を「千載一遇の機会」と見ているが、軍の上層部は「命令が部隊を分裂させ、内戦を招きかねない」と警戒している。
この繊細な状況こそ、イスラエルが「忍耐」を持って向き合うべき現実だ。しかし2023年10月7日のハマス奇襲以来、イスラエルは国境沿いの非国家武装勢力に対して極めて攻撃的な姿勢をとり続けている。
「必要とし合う」という逆説
表面上は対立しているが、イスラエルとレバノン政府には共通の目標がある。ヒズボラをレバノンの通常の政党に変え、テヘランの影響力をこの地から排除すること——この点において、両者の利害は一致している。
レバノン政府が南部を実効支配し、ヒズボラを無力化するには、軍が地道に地域を一つずつ制圧していく長く困難なプロセスが必要だ。イスラエルはその「重労働」を担う役割を果たせるかもしれない——ただし、占領や支配圏の拡大を目指すのではなく、レバノン主権の回復を支援する形で、だ。
逆に言えば、イスラエルが南部レバノンを占領し続ければ、ヒズボラは「対イスラエル抵抗」という政治的正当性を取り戻し、再び勢力を拡大する可能性が高い。占領が敵を育てる——この構図は1982年から変わっていない。
日本の外交的立場から見ると、この問題は「安全保障のジレンマ」の典型例だ。自国を守るための行動が、かえって脅威を増大させる——この逆説は、東アジアの安全保障環境を考える上でも無縁ではない。
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