米軍はなぜイランのドローンを「コピー」したのか
米軍がイランの自爆ドローン「シャヘド136」を模倣したLUCASを実戦投入。安価で大量生産可能な精密兵器が戦争の構造を変えつつある現実を、日本の安全保障の文脈から読み解く。
世界最強の軍事大国が、制裁下の国の兵器を「参考」にして新型ドローンを作った——その事実が意味することを、私たちはまだ十分に理解できていないかもしれません。
「コピー」から始まった実戦
2026年2月28日、米軍はイランへの空爆を実施しました。この作戦で初めて実戦投入されたのが、LUCAS(低コスト無人戦闘攻撃システム)です。米中央軍はその使用を公式に認め、「さらに多くのLUCASが運用準備完了状態にある」と発表しました。
注目すべきは、このLUCASがイラン製ドローンシャヘド136を原型としている点です。シャヘド136はイランが2022年に実戦投入した長距離一方向攻撃型ドローンで、推定射程1,500〜2,000キロ、搭載量50〜150キログラム、製造コストは1機あたり約350万円とされています。ロシアがウクライナ侵攻でこの技術を大量投入し、その残骸を米軍が回収・分析。アリゾナ州の小規模企業が改良版を製造し、今やイランへの攻撃に使われているのです。
トランプ大統領は2025年5月、イランのドローンを「安価で、非常に優秀、速くて致命的だ」と公に称賛していました。その舌の根も乾かぬうちに、ペンタゴンは同じ設計思想の兵器を「ドローン支配プログラム」の目玉として打ち出しました。
「安さ」が変えた戦争の論理
なぜ世界最高峰の防衛技術を持つ米国が、制裁を受けたイランの兵器設計を採用したのでしょうか。その答えは、数字の中にあります。
米軍の既存精密誘導ミサイルトマホークは1発あたり約3億円。今回のイランとの戦闘開始からわずか1週間で、米軍は約400発のトマホークを使用し、推定約1,200億円相当を消費しました。これは米国の年間トマホーク調達予定数(当初350発)を超える数字です。対して、同じ金額でLUCASなら約2万3,000発が購入できます。
ロシアは現在、シャヘドの派生型であるゲラン2を1日最大1,000機生産する体制を目指しています。ウクライナは約80%のシャヘド攻撃を迎撃できていますが、それはあくまで現在の投入規模での話です。大量の安価ドローンが同時に押し寄せた場合、精密で高価な迎撃ミサイルでは対処が追いつかなくなる——これが「スウォーム(群れ)問題」です。
イランはすでにこの戦略を実行しています。オペレーション・エピック・フューリーへの報復として、イランはシャヘド136をバーレーン、クウェート、アラブ首長国連邦、さらにサウジアラビアの米国大使館にまで撃ち込みました。2,000機規模のシャヘド群は、現状の防空網では完全な迎撃が困難であることが示されました。
日本の防衛産業への問い
この変化は、日本にとって対岸の火事ではありません。
日本は2022年の安全保障戦略改定以降、反撃能力(敵基地攻撃能力)の保有を決定し、トマホークの導入も決定しました。しかし今回の中東での戦闘が示したのは、高価な精密誘導兵器だけでは「消耗戦」に対応できないという現実です。
防衛省と国内防衛産業(三菱重工、川崎重工など)は、長年「高性能・少数精鋭」路線を歩んできました。しかし今後の安全保障環境が「安価・大量・自律」なドローンの時代に移行するならば、日本の防衛調達の哲学そのものが問われることになります。
さらに、部品供給の観点も重要です。LUCASのような低コストドローンには、民生用の電子部品が多く使われます。日本の半導体・電子部品メーカー(村田製作所、TDK、ロームなど)は、こうした軍民両用(デュアルユース)需要の拡大にどう向き合うのか。技術的な貢献と倫理的な判断の間で、企業は難しい選択を迫られるかもしれません。
また、日本の製造業が誇る「品質へのこだわり」は、「安くて十分に機能する」を旨とする精密大量兵器の世界では、むしろ障壁になる可能性があります。コスト優先・スピード優先の防衛調達文化は、日本社会の価値観とどう折り合いをつけるのでしょうか。
多角的な視点から
米国の視点では、LUCASの迅速な開発(概念から実戦投入まで約18ヶ月)は成功例として語られています。しかし国防長官ヘグセス自身が認めるように、米国の防衛産業基盤は「疲弊し、過度に集約され、近代的脅威への対応が遅れている」状態です。
イランの視点では、制裁下で開発した低コスト兵器が世界最強の軍事大国に「模倣」されたことは、ある種の技術的勝利とも言えます。しかし同時に、米国がその技術を自国に向けて使用するという皮肉な展開に直面しています。
中東周辺国の視点では、バーレーン、クウェート、UAEへのドローン攻撃は、自国の防空能力の限界を露わにしました。日本と同様に、これらの国々も防衛戦略の見直しを迫られています。
ウクライナの経験は、この問題を最も鮮明に示しています。週1,100機以上のシャヘド型ドローン攻撃に晒されながら、ウクライナは防空リソースの消耗と市民インフラへの被害という二重の圧力に苦しんでいます。
記者
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