「反科学」は、なぜ医療ドラマを必要とするのか
SNLの風刺コント「MAHAspital」が暴いた真実——反establishment派は、自分たちが批判する主流文化なしには存在できない。陰謀論とエンタメの奇妙な共依存関係を読み解く。
「医療ドラマが好きな人向けだが、リベラルな科学は要らない人向け」——そんな番組が本当に成立するだろうか。
2026年3月、アメリカの長寿コメディ番組Saturday Night Liveにハリー・スタイルズがホストとして登場し、「MAHAspital(マハスピタル)」と題したコントを披露した。これはRFKジュニア(ロバート・F・ケネディ・ジュニア)が率いる「Make America Healthy Again(MAHA)」運動と、HBOの医療ドラマThe Pittを掛け合わせた風刺作品だ。わずか4分以内で、救急搬送、医師同士の対立、過去のトラウマ告白といった医療ドラマの定番シーンをすべて再現しながら、「ビーフタロウと生卵6個を今すぐ」「私はエネルギーヒーラー資格を持っている。インスタのフォロワーが3,000人いる」といった疑似科学的台詞を次々と詰め込んだ。
コントのクライマックスでは、ジェームズ・オースティン・ジョンソンがRFKジュニアを演じ、マッスルスーツを着て登場。「患者」として運ばれてきたのは、死んで数日が経過したクマの死骸だった。これは2024年に発覚した実際の出来事——RFKジュニアがセントラルパークにクマの死骸を遺棄したという事実——を下敷きにしている。「何度も言われてきたはずだ。『お前は狂っている。危険で無責任だ』と。それでもやった」というジョンソンの台詞は、反establishment的な自己像を見事に解剖してみせた。
「Weekend Update」が暴いたもう一つの矛盾
同夜の「Weekend Update」コーナーでは、新キャストジェレミー・カルヘインがタッカー・カールソンの物真似を披露した。アカデミー賞について意見を求められたカールソン(役)は、映画Sinnersを「左翼的でウォーク」と批判しつつ、実は作品の内容を熱心に語り続けた。「もう教会には行かない。Sinnersに行く。それが今のルールだ」という台詞は笑いを誘ったが、そこには鋭い観察が含まれている。
カールソンの「怒り」は、主流のエンターテインメントを素材にしなければ成立しない。M&Mのキャラクターが「セクシーでなくなった」と憤慨した過去の発言しかり、彼のコンテンツは批判対象への依存によって成り立っている。SNLはこの夜、反establishment派のメディア戦略の核心にある逆説を、笑いという形で可視化した。
「寄生」という構造——批判者は宿主なしに生きられない
ここに、SNLが「MAHAspital」で描こうとした本質的なテーマがある。反establishment的な言説は、批判する対象なしには存在できない。
MAHA運動が機能するのは、大多数の人々が従来の医療に信頼を置いているからこそだ。ワクチン懐疑論者が「集団免疫のフリーライダー」であるように、疑似科学の発信者たちは、自分たちが否定する医学的権威の存在によって、自らの「対抗文化」としての価値を維持している。ライターアダム・サーワーが最近指摘した「gullicism(信じやすさ)」という概念が示すように、この構造は単なる無知ではなく、むしろ精巧に設計されたアテンション・エコノミーの産物でもある。
メディア研究者たちはこの現象を「反応的アイデンティティ(reactive identity)」と呼ぶことがある。自分が「何者であるか」ではなく、「何に反対するか」によって自己定義するアイデンティティの形式だ。医療ドラマのフォーマットを借りなければ「MAHAspital」が成立しないように、反科学コンテンツは科学という宿主なしに生存できない。
日本においてもこの構造は無縁ではない。2021〜2023年のコロナ禍において、日本のSNS上でも「5G陰謀論」や「ワクチン副反応」に関する情報が急速に拡散した。その多くは、既存の医療制度や政府機関への信頼を前提とした「批判」として構成されていた。主流メディアや医療機関が存在するからこそ、それを「否定する」コンテンツに価値が生まれる——この逆説は、日本社会でも静かに作動している。
記者
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