ホルムズ海峡が閉じた日、インドのエネルギー安全保障は試される
西アジアの戦争激化でインドの石油輸入に深刻な影響。ホルムズ海峡封鎖、ロシア産原油の争奪戦、日本との備蓄格差が示す「エネルギー安全保障」の本質とは。
石油備蓄が9.5日分しかない国が、世界第3位の原油消費国だとしたら——それがいま、インドが直面している現実です。
ホルムズ海峡という「瓶の首」
西アジアでの戦争が激化するなか、インドは自国のエネルギー安全保障の脆弱さを改めて突きつけられています。インドの原油輸入依存度は消費量の約87%に達しており、そのうち60%以上がペルシャ湾岸諸国——イラク、サウジアラビア、クウェート、UAE——から供給されています。これらの原油はすべて、ホルムズ海峡を通過してインド洋に入り、インドへと運ばれます。
ところがそのホルムズ海峡が、イランによる攻撃を受けて事実上、商業船舶の通行が困難な状況に陥っています。開戦前、インドの原油輸入のおよそ半分がこの海峡を経由していました。インドの石油・天然ガス大臣ハルディープ・シン・プリー氏は議会で、ホルムズ海峡を経由しない調達先の割合を開戦前の55%から現在は約70%まで引き上げたと説明しました。
しかしその「迂回ルート」もまた、単純ではありません。3月11日、サウジアラビア産の原油を積んだタンカーがムンバイに入港しました。開戦後、ホルムズ海峡を通過してインドに到着した初めての船でしたが、その船は追跡を逃れるためにAIS(自動船舶識別装置)を意図的にオフにして航行していました。同じ日、グジャラート州カンドラ港に向かっていたタイ船籍のバルクキャリアが、ホルムズ海峡通過中に攻撃を受けています。
ロシア産原油という「綱渡り」
迂回ルートの中心にあるのが、ロシア産原油です。2022年のロシア・ウクライナ戦争勃発後、インドは大幅な割引価格でロシア産原油を大量購入し、エネルギーコストを抑えてきました。ところが今年1月、米国の圧力——インド産品への25%の懲罰的関税という形で——により、ロシア産原油の購入は大幅に減少。インドは事実上、米国との貿易協定と引き換えにロシア産原油の購入停止を受け入れる姿勢を示していました。
ところが西アジアの戦争がすべてを変えました。米国はインドに対し、海上で滞留しているロシア産原油の輸入を「容認」する30日間の免除措置を付与。インドはブレント原油比で1バレルあたり2〜8ドルのプレミアムを支払って3,000万バレルのロシア産原油を購入しました。かつての「割引価格」とは正反対の状況です。
さらに問題を複雑にしているのが、日本をはじめとする東アジア各国も同様にロシア産原油の調達に動いていることです。供給源が限られるなか、インドは今後、ロシア産原油の争奪戦で競合することになります。
日本との備蓄格差が示すもの
ここで日本と比較してみると、その差は際立ちます。IEA(国際エネルギー機関)加盟国には最低90日分の石油備蓄が義務付けられていますが、インドの備蓄は戦略石油備蓄が約9.5日分、石油会社の商業備蓄を合わせても64.5日分にとどまります。一方、日本の備蓄は254日分、韓国でも208日分に達します。
この差は単なる数字の問題ではありません。トヨタや新日本製鐵(現日本製鉄)のような製造業大国にとって、エネルギー安定供給は産業の根幹です。1970年代のオイルショックで深刻な打撃を受けた経験を持つ日本が、長年にわたって備蓄体制を整備してきた背景には、そうした歴史的教訓があります。インドが今まさに経験していることは、日本がかつて学んだ教訓の「再演」とも言えるかもしれません。
インドは今回、IEAが発動した戦略備蓄放出計画への参加を見送りました(インドはIEAの準加盟国)。「国内供給の確保を最優先する」という政府の判断は、裏を返せば、放出できるほどの余裕がないという現実を示しています。
外交という「もう一つの燃料」
エネルギー危機への対応として、インドは軍事力だけでなく外交も積極的に活用しています。モディ首相は3月12日にイランのペゼシュキアン大統領と電話会談を実施。外相ジャイシャンカル氏はイランの外相と少なくとも3度会談しています。インドがテヘランの要請を受けてイラン軍艦3隻に寄港を認めたことも、この文脈で理解できます。
その結果、イランはインド船籍の一部船舶がホルムズ海峡を通過することを認め、3月14日にはインド海軍の監視のもと、LPGタンカー2隻が海峡を無事通過しました。
インドはまた、バングラデシュに軽油5,000トンを供給し、ネパールやスリランカからの追加燃料供給要請にも対応を検討しています。エネルギー危機の中で「地域の供給者」としての役割を果たすことで、インドは外交的影響力の維持も図っています。
記者
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