「保険会社」から「みかじめ料」へ——米国覇権の終わりの始まり
イラン戦争と関税政策が世界経済に与える影響を、ピーターソン国際経済研究所のアダム・ポーゼン所長との対話から読み解く。米国の信頼失墜が日本を含む同盟国に何をもたらすか。
2022年、ロシアがウクライナへの全面侵攻を開始する直前、欧州はロシア産ガスへの依存から脱却するため、米国産LNG(液化天然ガス)の受け入れ施設に巨額を投じた。「権威主義的なロシアではなく、民主主義の盟友・米国から買える」——そう信じていた。
それから3年。ピーターソン国際経済研究所所長のアダム・ポーゼン氏は、こう述べた。「米国はロシアよりはましだが、もはや信頼できる供給者ではない、という認識に変わってしまった」
「最も汚れていないシャツ」の代償
デイビッド・フラム(The Atlantic)とポーゼン氏の対話が描き出す世界経済の現状は、日本にとって他人事ではない。
イラン戦争が勃発し、ホルムズ海峡を通じるエネルギー供給が脅かされている。世界の原油の約20%がペルシャ湾岸から産出されるが、その80%はアジア市場向けだ。日本、韓国、中国——エネルギーを輸入に頼るアジア経済圏が直撃を受けている。
米国の株式市場は比較的落ち着いているように見える。しかしポーゼン氏はその楽観を戒める。「株式市場が示しているのは、いつかは明日が来るから今買っておこう、という判断に過ぎない。世界が爆撃されてエネルギー不足になるなら、米国に資金を置いておく方がまし——そういうことだ。信頼の表れではない」
世界の資金が「最も汚れていないシャツ」としての米ドルに流れ込む。その結果、新興国・途上国の通貨は下落し、食料・エネルギー価格が上昇し、金利を引き上げざるを得なくなる。インド、ブラジル、南アジア、サハラ以南のアフリカ——「世界の南」が深刻な景気後退に向かいつつある。
日本が直面する「三重苦」
日本経済にとって、この局面は三つの圧力が重なる。
第一に、エネルギーコストの急騰だ。日本はエネルギー自給率が極めて低く、原油・LNGの輸入依存度が高い。ホルムズ海峡の緊張が続けば、トヨタや新日本製鉄のような製造業大手のコスト構造が根底から揺らぐ。
第二に、円安圧力の再燃だ。世界のリスクマネーが米ドルに流れるとき、円は売られやすい。輸入コストがさらに上昇し、家計の実質購買力が低下する。少子高齢化で内需が構造的に縮小している日本にとって、これは痛手だ。
第三に、米国への安全保障依存というジレンマだ。ポーゼン氏は日本について「ライド・オア・ダイ(運命共同体)」と表現した。軍事的に米国への依存度が高い日本は、欧州のように代替策を模索する自由度が小さい。しかし、米国が同盟国に対しても「みかじめ料」的な振る舞いをするようになれば、日本の安全保障の前提そのものが揺らぐ。
「保険会社」が「ギャング」になった日
ポーゼン氏が提示した比喩は鋭い。戦後の米国は、世界経済に対して保険会社の役割を果たしてきた。海上の安全を保障し、財産権を守り、ドル建て資産の安全性を担保した。各国はその「保険料」として、米国製品を買い、米国債を保有し、英語を学んだ。
トランプ政権はそのビジネスモデルを変えた。「いい経済をお持ちですね。何かあっては困るでしょう」——保険会社が保護を売りにするギャングに変わった瞬間だ。
その結果、2025年4月の「解放の日」関税発動以降、AI関連を除くビジネス投資は12〜14ヶ月にわたってほぼ横ばいが続いているとポーゼン氏は指摘する。減税、規制緩和、エネルギー価格低下——投資ブームを生む条件は揃っていたにもかかわらず、だ。
最高裁が関税の大部分を違憲と判断し、払い戻しを命じた。しかしポーゼン氏は楽観しない。「ハンマーを取り上げたのではない。大型ハンマーを使うなと言って、絆創膏を貼っただけだ。ハンマーで殴られるという脅威は残っている」
歴史が語る「覇権の罠」
フラムが指摘する歴史的な教訓は重い。過去500年の世界史において、最強国は常に「2位から10位」の連合に打ち倒されてきた。ハプスブルク家も、ブルボン朝も、そうして衰退した。
1945年以降の米国がこの「覇権の罠」を回避できたのは、自国の力を同盟国にとって脅威ではなく恩恵として行使したからだ。3位から10位の国々が2位(ソ連、そして中国)に対抗するために1位(米国)と組む構造を作り上げた。
トランプ政権の行動は、この構造を侵食しつつある。ポーゼン氏は言う。「3位から90位の国々が、米国か中国かを選ばなければならない世界は最悪だ。どちらも悪い選択肢になってしまう」
日本にとって、これは抽象的な地政学の話ではない。F-35の代替として英国・イタリア・日本が共同開発する次世代戦闘機「グローバル・コンバット・エア・プログラム(GCAP)」は、まさにこの「米国依存からの分散」の文脈で生まれたプロジェクトだ。
スタグフレーションの亡霊
経済的な最悪シナリオとして、ポーゼン氏が懸念するのがスタグフレーションだ。エネルギーショックによるインフレ圧力が高まる中、トランプ大統領は連邦準備制度理事会(FRB)に利下げを迫っている。
次期FRB議長候補とされるケビン・ウォーシュ氏が、政治的圧力に屈して利下げに踏み切れば、1970年代のアーサー・バーンズ議長の失敗が繰り返される。当時、大統領の意向に沿った利下げがインフレを制御不能にし、深刻なスタグフレーションを招いた。
ポーゼン氏の試算では、米国経済(年間30〜33兆ドル規模)が通常の成長軌道(年率約1.5%)から景気後退(マイナス0.5〜1%)に転落した場合、スイングの規模は6兆ドルに達する。
本コンテンツはAIが原文記事を基に要約・分析したものです。正確性に努めていますが、誤りがある可能性があります。原文の確認をお勧めします。
関連記事
米国とイランの交渉は進展しているのか、それとも行き詰まっているのか。ホルムズ海峡封鎖が続く中、日本経済にも深刻な影響が及びつつある。両国の思惑と、長期化するリスクを多角的に読み解く。
イランがホルムズ海峡の再開を発表したが、米国の封鎖は継続中。米イラン核交渉の現状と、日本のエネルギー安全保障への影響を多角的に分析する。
イランが発見した究極の抑止力——ホルムズ海峡の封鎖は、核兵器を上回る経済的打撃を世界に与えつつある。日本企業とエネルギー安全保障への影響を多角的に読み解く。
米国とイランがホルムズ海峡をめぐり対峙する中、世界の石油供給の20%が揺らいでいます。日本経済への影響と、この「意志の戦い」の行方を多角的に読み解きます。
意見
この記事についてあなたの考えを共有してください
ログインして会話に参加