空飛ぶクルマ、今年6月に米国空域へ
米国運輸省が2026年6月から空飛ぶクルマ(eVTOL)の試験運航を開始すると発表。ニューヨーク、テキサスなど8地域で3年間の実証実験が始まる。トヨタ出資のJoby Aviationも参加。日本の空モビリティ戦略への影響は?
渋滞を空から飛び越え、隣の都市まで数分で移動する——それはもはやアニメの中だけの話ではありません。
米国運輸省は2026年3月10日、「空飛ぶクルマ」と呼ばれる新型航空機が、早ければ2026年6月から米国の空を飛び始めると発表しました。ニューヨーク・ニュージャージー、テキサス、フロリダ、ニューメキシコ州アルバカーキなど8つの地域が参加する3年間の実証プログラムで、人や貨物を運ぶ実際の運航が始まります。
「空飛ぶクルマ」とは何か?
今回の主役は、eVTOL(電動垂直離着陸機)と超短距離離着陸機(ultra-short takeoff aircraft)です。ヘリコプターのように狭いスペースで離着陸できながら、飛行機のように効率的に飛行できるのが特徴です。従来の空港に依存せず、都市の中心部や住宅地の近くに設けた「バーティポート」と呼ばれる小型着陸場を使います。
参加企業が強調するのは三つの利点です。まず騒音がヘリコプターより大幅に少ないこと。次にコストが低いこと。そして電動のため排出ガスがほぼゼロであること。Archer AviationのCEO、アダム・ゴールドスタイン氏は投資家向け説明会でこのプログラムを「我々のWaymoモーメント」と表現しました。自動運転タクシーのWaymoが街中で当たり前の存在になったように、空飛ぶクルマも日常の通勤手段になることを目指すという意味です。
Archerの空飛ぶタクシー「Midnight」は最大4名を乗せ、60〜90分の飛行が可能です。同社には自動車メーカーのステランティスと航空会社のユナイテッド航空が出資しています。他にも小型電動機メーカーのBeta Technologies、そして***トヨタとジェットブルーが出資するJoby Aviation***が参加しています。
重要なのは、これらの企業はまだFAA(米国連邦航空局)の正式な型式証明を取得していないという点です。FAA広報担当のドネル・エバンス氏は「このパイロットプログラムは安全基準や将来の政策策定に役立てるためのもので、認証プロセスを迂回する手段ではない」と明言しています。実証飛行を通じて得られたデータが、今後の認証基準の整備に活用される仕組みです。
なぜ今、このタイミングなのか?
背景には中国との競争があります。中国では国産eVTOL企業のEHangがすでに政府から自律飛行eVTOLの運航認証を取得し、観光遊覧飛行を開始しています。米国は「空のモビリティ」で後れを取ることを警戒しており、トランプ政権は2025年6月にドローンや空飛ぶクルマに関する「過剰な規制を排除する」大統領令に署名していました。バイデン政権が2023年に策定した計画では2028年のロサンゼルス五輪に向けた展開を目指していましたが、今回の発表でそのスケジュールは大幅に前倒しされた形です。
ドバイでは今年中にもJoby AviationのeVTOLによる空飛ぶタクシーサービスが始まる予定です。世界の主要都市が「空のライドシェア」の先行者利益を競い合っています。
この流れは日本にとって他人事ではありません。トヨタはJoby Aviationに対して合計約1,000億円規模の投資を行っており、日本市場での展開も視野に入れています。日本政府も「空飛ぶクルマ」の実用化を国家戦略として位置づけ、2025年の大阪・関西万博での実証飛行を経て、2030年代の本格普及を目指すロードマップを描いています。しかし米国が認証・運航の実績を積み重ねていく中で、日本の規制整備や産業育成が追いつけるかどうかが問われます。
誰が恩恵を受け、誰が懸念するのか?
都市部の通勤者にとっては、渋滞を回避する新たな移動手段が生まれる可能性があります。特に地方や離島など、交通インフラが整っていない地域での医療アクセスや緊急搬送への応用は、高齢化社会を抱える日本にとって切実な意味を持ちます。
一方で、懸念の声もあります。航空安全の専門家は、正式認証前の運航に慎重な姿勢を崩していません。騒音問題については「ヘリコプターより静か」とされていますが、住宅密集地の上空を頻繁に飛行した場合の影響は未知数です。また、初期の運賃は決して安くはないと予想されており、「空飛ぶタクシー」が富裕層だけのものになるリスクも指摘されています。
タクシーやバス業界への影響も無視できません。長距離バス路線が競争にさらされる可能性があり、既存の交通事業者は新たな競合の登場に備える必要があります。
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