30年間変わらなかった国の「育児休業なし」という現実
アメリカは先進国でほぼ唯一、育児休業の連邦法保障がない国です。なぜ超党派の支持があるにもかかわらず、30年間法案が通らないのか。日本の少子化問題とも深く連動する政策の構造的失敗を読み解きます。
民間企業で働くアメリカ人のうち、育児休業を有給で取得できる人は4人に1人しかいません。最低賃金水準の労働者に至っては、ほぼゼロです。
これは、先進国の中でほぼ唯一の状況です。日本、ドイツ、フランス、北欧諸国——世界のほとんどの国が、新しい親に対して何らかの有給育児休業を法律で保障しています。しかしアメリカは、30年以上にわたってその一歩を踏み出せていません。
不思議なのは、アメリカ社会が育児休業を「望んでいない」わけではないという点です。世論調査では超党派の支持が長年示されており、共和党議員でさえ複数の法案を提出してきました。ではなぜ、変化が起きないのでしょうか。
「全か無か」の戦略が生んだ30年間の空白
話は1993年にさかのぼります。この年、ビル・クリントン大統領が署名した「家族・医療休暇法(FMLA)」が成立しました。これは、対象となる労働者に最大12週間の無給・雇用保護付き休暇を保障する法律です。
FMLAが誕生した背景には、1980年代から続く長い政治的闘争がありました。当初は「産休保障」として構想されたこの法律は、交渉の過程で大きく形を変えました。障害者権利団体、フェミニスト団体、高齢者団体(AARP)、労働組合が連合を組み、育児休業だけでなく、自身の深刻な健康問題、家族の介護、高齢の親の世話なども一括してカバーする包括的な法律へと発展したのです。
この「包括的アプローチ」がその後30年間、アメリカの育児休業政策を縛り続けることになります。民主党は以来、FMLAを「有給化」しようと何度も試みてきましたが、その度に「育児休業+医療休暇+介護休業」をすべて一度に有給化しようとする包括的な法案を提出してきました。
最新版である2025年のFAMILY Actは、ストーキング被害者や性的暴行サバイバーへの休暇保障、義理の孫の世話まで対象を広げた、これまでで最も野心的な内容となっています。理念としては崇高ですが、その分コストは膨大になり、議会を通過させることはさらに困難になっています。
ニューヨーク州選出のカーステン・ギリブランド上院議員の事務所スタッフはこう語りました。「議会でこの問題に取り組めるのは一世代に一度かもしれない。だから交渉が始まる前に自分たちの立場を弱めるわけにはいかない」。
しかしこの「一度しかチャンスがない」という思考が、皮肉にも何度もチャンスを逃してきた原因かもしれません。2021年、民主党が議会の統一支配を握ったとき、育児休業・保育・介護・幼児教育・児童税額控除をすべて一つの大型予算調整法案に盛り込もうとしました。しかし優先順位をつけることを嫌った結果、法案は崩壊し、育児休業も含めて何も通りませんでした。
「親だけ」に絞れば、通るかもしれない
世界の他の国々はどうしたでしょうか。ほぼすべての国が、まず「産休・育休」という基本的な保護から始め、数十年かけて父親休暇、介護休業、医療休暇へと拡充していきました。育児休業は育児休業として、独立したプログラムとして設計されたのです。
アメリカでも、育児休業に特化した超党派の動きは確かに存在します。イヴァンカ・トランプは父の第一期政権時代に6週間の有給育児休業を看板政策として掲げ、2019年の一般教書演説でも言及されました。共和党のマルコ・ルビオ上院議員は2018年、新しい親が社会保障の積立金を前借りして育児休業の費用に充てられる法案を提出しました。
最も大きな成果は2019年、共和党主導の議会が国防予算法案の中に2,100万人の連邦文民職員に対する12週間の有給育児休業を盛り込み、トランプ大統領が署名したことです。
2022年のドブス判決(連邦最高裁がロー対ウェイド判決を覆した)以降、少なくとも12の共和党主導の州が州職員向けの有給育児休業を新設または拡充しています。「生命を大切にする(プロライフ)政策」として位置づけることで、保守派の中でも支持を集めやすくなっているのです。
超党派シンクタンクバイパーティザン・ポリシー・センターのエイドリアン・シュウィア氏はこう指摘します。「共和党が今、育児休業について語る言葉は5年前とは明らかに変わっている。これは前進だ」。
しかし、包括的な法案を支持してきた側には根強い抵抗もあります。育児休業だけに絞ることで、医療休暇や介護休業の実現がさらに遠のくのではないかという懸念です。ニューアメリカの有給休業専門家ヴィッキー・シャボ氏は「育児休業に絞れば包括的な法案より支持が集まるという証拠はない」と慎重な立場を取ります。
日本との共鳴——制度はあっても使えない問題
ここで日本の読者には、ある既視感があるかもしれません。
日本には、世界でも最も充実した育児休業制度の一つが法律上は存在します。男女ともに最大1年間(場合によっては2年)の育児休業を取得する権利があり、給付金も整備されています。しかし現実には、父親の育児休業取得率は近年ようやく30%を超えた程度(2023年度)であり、中小企業では依然として取得が難しい状況が続いています。
アメリカの問題が「制度がない」ことだとすれば、日本の問題は「制度があっても使えない」こと——。構造は異なりますが、どちらも「新しい親が十分なサポートを受けられていない」という結果は同じです。
少子化が深刻な社会課題となっている日本では、政府が「異次元の少子化対策」として育児支援の拡充を進めています。しかし、アメリカの事例が示すのは、制度設計の「戦略」がいかに重要かということです。完璧な制度を一度に実現しようとして何も得られないよりも、まず「使える制度」を作り、段階的に拡充していく方が現実的かもしれません。
また、日本企業の視点からも、この議論は無関係ではありません。トヨタ、ソニー、任天堂など、アメリカに多くの従業員を抱える日本企業は、連邦法がないために州ごとに異なる規制に対応しなければなりません。連邦レベルの統一基準ができれば、むしろ企業にとっての予測可能性が高まるという側面もあります。
有給育児休業が企業に与える影響について、各州のプログラムを研究した複数の調査は「生産性やコストへの悪影響は見られない」と結論づけています。むしろ、離職率の低下や採用競争力の向上につながるケースが多いとされています。
本コンテンツはAIが原文記事を基に要約・分析したものです。正確性に努めていますが、誤りがある可能性があります。原文の確認をお勧めします。
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