アメリカの「良い数字、悪い気分」が示す経済の新常識
失業率4.3%、賃金上昇3.7%の好調な経済指標にも関わらず、なぜアメリカ国民の経済満足度は史上最低レベルなのか。AI時代の労働市場変化を読み解く。
4.3%の失業率、3.7%の賃金上昇、14%の株価上昇。数字だけ見れば、トランプ政権下のアメリカ経済は順調そのものです。しかし、国民の経済満足度は史上最低レベルまで落ち込んでいます。
なぜ「良い数字」と「悪い気分」がこれほど乖離しているのでしょうか。
見えない痛みが積み重なる
表面的な経済指標の裏で、アメリカ国民が実感している現実は複雑です。スタンフォード大学のエリック・ブリニョルフソン教授の分析によると、2025年の生産性は2.7%成長し、過去10年の平均の約2倍に達しました。
しかし、この生産性向上の恩恵は均等に分配されていません。元バイデン政権の経済学者マイク・コンツァル氏の分析では、食料、住宅、医療、交通といった「必需品」の価格上昇が、全体のインフレ率を上回って続いています。
特に注目すべきは電力料金です。全体のエネルギーコストは0.1%下落したものの、ガソリン価格の大幅下落に隠れて、電気料金と天然ガス料金は急騰しています。すでに高すぎると感じていた生活費からの、さらなる値上げ。これが国民の不満を増幅させているのです。
ホワイトカラーの雇用が消える
数字の裏にある、もう一つの重要な変化があります。2025年の新規雇用創出は18万1000人にとどまり、パンデミック年を除けば2010年以来の低水準でした。
特に深刻なのは、金融、保険、情報、専門サービス業といった中核的なホワイトカラー産業です。これらの分野は2022年末から1.9%の雇用を削減しており、通常は景気後退期以外では雇用を増やし続ける業界としては異例の事態です。
この背景には、生成AIの普及があります。企業は1人当たりの生産性を向上させる方法を見つけ、生産量を維持しながら雇用を削減できるようになりました。失業率は低く保たれていますが、労働者の転職選択肢と交渉力は確実に削がれています。
日本企業にとっても、この変化は他人事ではありません。ソニーやトヨタなどの多国籍企業は、アメリカ市場での人材戦略の見直しを迫られるでしょう。
心理的な「負の偏見」が増幅
人間は本能的に、得るものより失うものに注意を向ける「負の偏見」を持っています。アメリカ国民はトランプ大統領就任時点で、すでに生活費を「耐え難いほど高い」と感じていました。
そのため、ガソリンや食料品がわずかに安くなっても「当然のこと」と受け取られ、電気代の値上げは強烈な不満として記憶に刻まれます。期待値が高まっていた分、わずかな悪化でも心理的衝撃は大きくなるのです。
ミシガン大学の消費者信頼感指数は、大恐慌時代よりも低い水準まで落ち込んでいます。客観的な経済状況よりも、人々がその状況をどう解釈するかが、政治的・社会的な動向を左右する時代になったのかもしれません。
記者
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