「気候変動」が禁句になった日
トランプ政権下の米国で、連邦研究機関が「気候変動」という言葉を禁止。科学者たちは言葉を言い換えて研究を続けるが、言語統制は科学そのものを変えるのか。日本の研究者や企業への示唆とは。
ある朝、イリノイ州ピオリアの農業研究所に一通のメモが届きました。内容は単純明快でした。「『気候変動』という言葉を使ってはならない」。
米国農務省(USDA)農業研究局のユニオン代表、イーサン・ロバーツ氏はこの瞬間を振り返り、「禁じられたC-word(C語)」と呼びます。連邦政府職員として約10年のキャリアを持つ彼にとって、これはトランプ第1期政権をも超える異例の事態でした。
100語以上の「禁止リスト」が生まれるまで
2025年3月、USDA農業研究局の上層部から出回ったメモには、100語以上の禁止用語・フレーズが列挙されていました。そのうち約3分の1が気候変動に直接関連するもの——「地球温暖化」「気候科学」「炭素隔離」などです。さらに「クリーンエネルギー」「マイクロプラスチック」「水質汚染」「電気自動車」といった環境・エネルギー関連の用語も含まれています。
研究者たちは言葉を置き換えることで対応しました。「気候変動」は「気温上昇」「土壌の健全性」「異常気象」へ。「多様性(diversity)」は論文申請書から静かに消えていきました。
これは単なる言葉遊びではありません。米国科学財団(NSF)の助成金データを分析すると、「気候変動」に言及した助成件数は2023年の889件から2024年には148件へと、77%も急減しています。一方で「異常気象」という言い換えが増加しており、研究者が自主的に言葉を選び直している実態が浮かび上がります。
イリノイ州の州気候学者、トレント・フォード氏は「原則として、気候変動を研究しているのに気候変動と呼べないのは後ろめたい」と打ち明けながらも、現実的な判断として言い換えを選んでいます。「気候変動と言わずに書かれた申請書が、明らかに気候変動の影響を研究しているにもかかわらず、問題なく通過するのを見てきた」と言います。
なぜ今、この問題が重要なのか
トランプ大統領は石炭を「清潔で美しい」と称し、気候変動対策を「グリーン詐欺」と切り捨てました。イーロン・マスク氏率いる政府効率化省(DOGE)は数十万人の連邦職員を削減し、環境・公有地関連の研究助成を数百億ドル規模でカットしました。EPA(環境保護庁)の環境正義部門は本部・全10地域事務所すべてで閉鎖されました。
この状況が日本の読者にとって対岸の火事に見えるとすれば、それは早計かもしれません。
米国の気候研究の縮小は、地球規模の科学的知見の蓄積そのものを遅らせます。 農業分野での影響は特に深刻です。大豆、小麦、トウモロコシ——日本が大量に輸入するこれらの作物の病害リスクや収量変動を予測するデータが、今後数年で細っていく可能性があります。日本の食料安全保障にとって、米国の農業科学は不可欠なインフラの一部です。
また、日本の大学や研究機関は米国の研究者と多くの共同プロジェクトを持っています。助成金が削られ、研究テーマが政治的に制約される環境では、共同研究のパートナーシップ自体が再考を迫られる局面もあるでしょう。
言葉を変えると、科学は変わるのか
ここに、より根本的な問いがあります。言葉を言い換えるだけで、研究の中身は守られるのでしょうか。
ロードアイランド大学教授のオースティン・ベッカー氏は、港湾インフラの気候適応を研究しています。トランプ第1期から「気候」という言葉を「沿岸レジリエンス」に置き換え、そのまま使い続けてきました。「言葉を変えても研究は続けられる」という楽観的な見方の典型です。
しかし、アメリカン大学のダナ・フィッシャー教授は民間資金や海外資金(かつてはノルウェー研究評議会から助成を受けた)を探し始めています。「共和党政権のときはいつもこうなる」と彼女は言いますが、今回の規模はかつてないものです。
問題は、言葉の置き換えが研究の「フレーミング」を変え、やがて研究の「方向性」そのものを変えてしまう可能性です。「気候変動が大豆病害を引き起こす」という問いと、「この条件下で大豆病害はどう振る舞うか」という問いは、一見似ていますが、科学的に積み上げられる知識の体系は異なります。原因と結果のつながりを問わない研究は、対策につながりにくい。
日本では、研究者が政治的圧力によって言葉を変えるという事態は、まだ表面化していません。しかし、企業の「グリーンウォッシング」批判を避けるための「気候ハッシング(沈黙)」は、すでに日本の産業界でも見られる現象です。言葉を慎重に選ぶことと、言葉を隠すこと——その境界線はどこにあるのでしょうか。
本コンテンツはAIが原文記事を基に要約・分析したものです。正確性に努めていますが、誤りがある可能性があります。原文の確認をお勧めします。
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