「タダの政府」は存在しない――カリフォルニアが示す減税の代償
アメリカで「納税への怒り」が高まっている。1978年のカリフォルニア州「提案13号」が引き起こした財政・社会的連鎖は、日本の地方財政や固定資産税議論にも重要な示唆を与える。
「税金を下げれば、生活は良くなる」——その約束は、本当に守られるのだろうか。
1978年、カリフォルニア州の有権者たちは圧倒的多数でそう信じた。そして半世紀近くが経った今、その答えは複雑な形で出ている。アメリカでは再び「納税への怒り」が高まっており、歴史は繰り返されようとしている。
怒りに火をつけた「普通の改革」
ことの始まりは、善意の行政改革だった。20世紀半ばまで、アメリカの固定資産税は驚くほど前近代的な方法で運用されていた。担当者が政治的な判断で評価額を恣意的に操作し、票や賄賂と引き換えに低い査定額を与えることが横行していた。
カリフォルニア州はこの不公正を正そうと、1960年代にコンピューターを導入し、資産評価を専門職化した。ところが、これが思わぬ反発を招く。実態に即した評価額への移行により、多くの住宅所有者が初めて「本当の税負担」を突きつけられたのだ。
ここに登場したのが、ハワード・ジャービスという人物だ。ロサンゼルスの実業家で「偏屈者」とも評された彼は、固定資産税の廃止を訴えて運動を続けてきた。中古車販売業者のポール・ガンと組んだ彼は、州憲法改正案を起草する。その名が「提案13号(Proposition 13)」だ。「これに署名すれば、固定資産税が下がります」——それだけで、カリフォルニア史上最多の署名が集まった。
提案13号が変えたもの
提案13号の内容は明快だった。固定資産税率を評価額の最大1%に制限し、さらに年間の評価額上昇を最大2%に抑える、というものだ。
サンディエゴ大学都市研究学部のアイザック・マーティン教授は、この措置の長期的影響をこう説明する。「住宅を早く購入した人ほど税負担が少なくなり、その優遇措置は子や孫へと引き継がれる。ピーター・シュラグ(サクラメント・ビー紙元論説委員長)が言ったように、カリフォルニアには今や『不動産の世襲貴族』が存在する」
結果として何が起きたか。教育水準は低下した。かつてアメリカトップクラスだったカリフォルニアの公教育は、今や全米の中位以下に沈んでいる。インフラは老朽化し、消防署は専門職員から志願者に置き換えられた地域もある。州の税収構造は所得税に大きく依存するようになり、景気の波に翻弄されやすくなった。2008年の金融危機では、固定資産税収入を失った地方政府が相次いで財政危機に陥った。
そして皮肉な不公平が生まれた。同じ街区の同じ価値の家に住んでいても、購入時期が違うだけで税負担が大きく異なる。それを「不公平だ」と感じながらも、恩恵を受けている側は制度の変更に反対する——なぜなら、その不公平が自分の家に住み続けることを可能にしているからだ。
「第三のアメリカ革命」は今、何を意味するか
現在のアメリカに目を向けると、状況は1970年代の再来を思わせる。ギャラップの調査によれば、昨年(2025年)、連邦税が「高すぎる」と答えたアメリカ人は約60%に達した。共和党が強い州では固定資産税の大幅削減や廃止論が浮上し、民主党の一部議員でさえ、富裕層への増税を財源とした大規模減税を提案している。
マーティン教授はこう警告する。「政府をタダで手に入れたいと思うことはできる。でも、実際にタダで手に入れることはできない」
日本にとって、この議論は他人事ではない。少子高齢化が進む日本では、社会保障費の増大と財政健全化の狭間で、固定資産税や消費税をめぐる議論が常にくすぶっている。地方自治体の財政悪化、公共サービスの質の低下——これらはすでに日本の多くの地域で現実となりつつある問題だ。「税負担を減らしたい」という感情は普遍的だが、その感情が制度設計に直結したとき、何が失われるのかをカリフォルニアは半世紀かけて示してきた。
減税の恩恵を受けるのは現在の住宅所有者であり、コストを払うのは未来の世代や、まだ家を持っていない若者たちだ。日本の住宅市場や地方財政を考えるとき、この非対称性は無視できない視点を提供している。
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