BRICSは「橋」か「空洞」か——インド議長国の試練
イランと湾岸諸国の対立を前に、BRICS議長国インドは沈黙を続ける。17年の歴史を持つ多国間枠組みは、今も「統一された声」を持てないでいる。その構造的限界と地政学的意味を読み解く。
17年かけて作り上げた多国間枠組みが、加盟国同士の戦争を前にして何も言えない——それは失敗なのか、それとも最初から「そういうもの」だったのか。
BRICSとは何だったのか
話は2001年に遡る。ゴールドマン・サックス・アセット・マネジメントの当時会長だったジム・オニールが、一本のリサーチペーパーの中でBRICという造語を生み出した。ブラジル、ロシア、インド、中国——この4カ国が世界経済に与える潜在的な影響力を示すための概念だった。2009年に正式な枠組みとして発足し、翌年に南アフリカが加わり「BRICS」となった。
当初の期待は大きかった。欧米主導のグローバル・ガバナンスに代わる「もう一つの道」を示し、グローバルサウスの声を国際舞台に届ける——そんな青写真が描かれていた。しかし2021年、BRICSを命名したオニール自身が冷静な評価を下した。「5カ国は意味ある国際的勢力として団結することができなかった」と。
その後、BRICSは拡大を選んだ。2024年1月にイラン、UAE(アラブ首長国連邦)を含む新メンバーが加わり、現在は10カ国体制となっている。だが規模の拡大は、結束の強化を意味しなかった。
「沈黙する議長国」の構造的ジレンマ
2026年4月14日、駐インド・イラン大使のモハンマド・ファタリ氏は、インドがBRICS議長国として「対話と地域安定の促進に重要な役割を果たせる」と述べた。表向きは期待の表明だが、その言葉の裏には、インドへの明確な「催促」が込められている。
現在、イランは中東で戦争状態にある。イランはBRICS加盟国として、グループが自国への支持を明確に表明することを求めている。しかし問題はここで複雑に絡み合う。同じくBRICS加盟国であるUAEは、イランのドローン・ミサイル攻撃を受けている側だ。サウジアラビアはBRICSの正式メンバーではないが、サミットにゲスト参加しており、やはり攻撃の標的となっている。
BRICSは理論上、すべての加盟国の利益を守るべき立場にある。だがイランの利益を守ることと、UAEの利益を守ることは、現時点では両立しない。モディ首相はトランプ大統領ともネタニヤフ首相とも電話会談を続けているが、イスラエルとの緊密な関係を持つインドが中立的調停者として振る舞うことは、構造的に極めて困難だ。
これは今に始まった話ではない。2022年のウクライナ戦争の際、中国がロシア支持の声明をBRICSとして出そうとしたとき、インドは距離を置き、結果として声明は骨抜きになった。インドは「多方面連携(マルチアライメント)」という外交哲学のもと、西側諸国ともロシアとも関係を維持しようとしてきた。それは戦略的柔軟性とも言えるが、批判的に見れば「都合のよい沈黙」でもある。
「橋を架ける者」の限界
ニューデリーは自らを「橋渡し役」と位置づけてきた。グローバルノースとグローバルサウスをつなぐ存在として。2025年7月のリオデジャネイロBRICSサミットで、モディ首相はBRICSに「新しい形」を与えると宣言し、「Building Resilience and Innovation for Cooperation and Sustainability(強靭性・イノベーション・協力・持続可能性の構築)」という新たな意味を提案した。
だが言葉の巧みさと実際の成果の間には、依然として大きな溝がある。BRICS17年の歴史の中で、具体的な成果として挙げられるのは、新開発銀行(通称BRICSバンク)の設立がほぼ唯一と言っていい。統一通貨構想は頓挫し、安全保障の枠組みも存在せず、国連安保理改革に関する共同声明すら出せていない。
BRICS内部には、もう一つの断層線がある。ロシアと中国は、BRICSを「反欧米ブロック」として位置づけたい。一方、インドとブラジルは「現行のグローバル・ルールを改革するためのプラットフォーム」として捉えている。この根本的な方向性の違いは、10カ国体制になっても解消されていない。
日本から見えるもの
BRICSの機能不全は、日本にとって対岸の火事ではない。日本はG7の一員として西側秩序の枠内にあるが、同時にアジア太平洋地域でグローバルサウスとの関係深化を模索してきた。BRICSが「もう一つの国際秩序」として機能しないとすれば、それはグローバルサウスの声を代弁する別の枠組みが必要であることを意味する。
また、トヨタやソニーをはじめとする日本企業は、BRICS加盟国——インド、中国、ブラジル、UAE——に重要なビジネス拠点を持つ。中東情勢の不安定化は、エネルギー調達やサプライチェーンに直接的な影響を及ぼす。イランとUAEの対立が長期化すれば、ホルムズ海峡を経由する原油輸送リスクは高まり、日本のエネルギー安全保障にも波紋が広がる。
多国間枠組みが機能しないとき、各国は二国間関係に回帰する。その傾向は、WTO上訴機関の機能停止やAPECの形骸化にも見られる。日本外交が得意としてきた多国間主義の空間が、静かに縮小しているとも読める。
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