ASMLに迫る「DUV禁輸」— 半導体覇権の次の一手
米議会がASMLのDUV露光装置の対中輸出禁止を提案。中国売上比率20%を抱えるASML株は2.6%下落。日本の半導体産業と供給網への影響を多角的に分析します。
中国の工場で今日も稼働しているASMLの露光装置が、明日には「違法な輸出品」になるかもしれない。
2026年4月2日、米国の超党派議員グループが「MATCH法(Multilateral Alignment of Technology Controls on Hardware Act)」を提出した。この法案は、これまで中国企業が合法的に調達できていたASMLの深紫外線(DUV)リソグラフィ装置にまで輸出禁止の網をかけるものだ。法案提出の翌営業日、アムステルダム市場でASML株は約2.6%下落した。
「最後の抜け穴」を塞ぐ法案
これまでの米国の対中半導体規制は、主に最先端技術に集中していた。ASMLが製造する極紫外線(EUV)露光装置——最先端チップ製造に不可欠な装置——は、一度も中国に輸出されたことがない。オランダ政府もEUV装置の輸出ライセンスを認めてこなかった。
しかし、DUV装置は話が異なる。DUVはメモリチップや成熟プロセスの半導体製造に使われる「一世代前」の技術であり、SMIC(中芯国際)やHua Hong(華虹半導体)といった中国大手ファウンドリは、これを使って着実に生産能力を拡大してきた。法案を主導したワシントン州選出のマイケル・バウムガートナー議員は声明の中でこう述べている。「米国が広範な輸出規制を課してきた一方、同盟国はこれに完全には追随していない。この不一致が、中国が利用し続ける重大なギャップを生んでいる」。
MATCH法が成立すれば、このギャップは閉じられる。同盟国にも同水準の規制を求める多国間調整を促す設計であり、オランダが独自に発行してきたDUV輸出ライセンスの枠組みも根本から問い直されることになる。
ASMLの財務への打撃はどれほどか
ASMLにとって、中国市場はすでに縮小局面に入っている。2025年には全売上の33%を占めていた中国向けが、2026年には約20%まで落ちる見通しだ——これはMATCH法提案以前の数字である。
投資銀行ODDO BHFのエクイティリサーチ責任者、ステファン・ウリ氏は「DUV装置全体への禁輸が実現すれば、短期的には駆け込み需要で受注が膨らむ可能性がある一方、中期的には業績に相当な変動をもたらす」と指摘する。Quilter Cheviotのテクノロジーリサーチ責任者、ベン・バリンジャー氏はより具体的な試算を示した。「問題のDUV装置はASML全売上の10〜15%を占め、その中国向け比率は約50%。つまり全体売上への影響は約5%に相当する」。
もっとも、両アナリストとも「法案はまだ初期段階であり、米議会の立法プロセスを経る必要がある」と慎重な見方を示している。法案が成立するかどうか、成立するとしてどの範囲のDUV装置が対象になるかは、現時点では不透明だ。
規制は中国を本当に止められるか
ここで一つの逆説がある。過去数年間の米国による輸出規制は、皮肉にも中国の国内半導体産業を強化する側面があった。SMICやHua Hongは2025年に過去最高収益を記録し、高帯域幅メモリ(HBM)の代替品やNvidia競合製品の開発も進んでいる。
しかし、リソグラフィ装置だけは別次元の話だ。EUVに代わる国産装置は世界中どこにも存在しない。DUVについても、ASMLに匹敵するグローバルな代替品はほぼない。中国の半導体メーカーは今日も、成熟プロセスチップの製造をASMLのDUV装置に全面的に依存している。
「中国は今日、ASML装置に完全に依存している。(DUV禁輸が実現すれば)中国の半導体製造能力は深刻な打撃を受ける」とウリ氏は述べる。ただし「深刻な打撃」が「不可能」を意味するわけではない。中国がどの程度の期間で代替技術を開発できるか——あるいはできないか——は、今後の技術競争の核心的な問いとなる。
日本企業・日本市場への視点
この問題は、日本にとっても対岸の火事ではない。
まず、日本の半導体製造装置メーカーへの影響がある。東京エレクトロンやAdvantest(アドバンテスト)は、中国向け売上の比率が高い。MATCH法が「同盟国の規制一致」を求める設計である以上、日本企業も同様の制約を課される可能性を排除できない。日本政府はすでに2023年に一部の先端半導体製造装置の対中輸出規制を導入しているが、DUV相当の装置については対象外のものも残っている。
次に、サプライチェーンの観点から、日本の電子機器・自動車メーカーへの間接的な影響も考慮すべきだ。ソニー、トヨタ、デンソーなどは、成熟プロセスの半導体——まさにDUVで製造されるチップ——を大量に調達している。中国の半導体製造能力が制限されれば、グローバルな供給バランスが変化し、調達コストや納期に影響が及ぶ可能性がある。
一方で、日本の半導体産業にとってはビジネスチャンスの側面もある。ラピダスが目指す先端チップ製造や、既存の日本ファウンドリの成熟プロセス受注が増加する可能性がある。地政学的リスクを避けるために調達先を多様化したい企業にとって、日本は魅力的な選択肢になりうる。
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