「負けるはずだった」アップルが中国で23%増の理由
メモリ不足、AI遅れ、関税リスク——三重苦を抱えながら、アップルは2026年初頭に中国スマートフォン市場でシェアを拡大した。その背景にある構造的優位性とは何か。
「アップルは中国市場を失いつつある」——そう言われ続けてきた。
ところが現実は真逆だった。Counterpoint Research の調査によると、2026年の最初の9週間で中国におけるiPhone販売台数は前年比 23%増 を記録した。同じ期間、中国スマートフォン市場全体は 4%減 だった。市場が縮む中で、アップルだけが逆行した。
なぜ今、アップルは強いのか
答えの一つは「価格」だ。世界的なAIブームが引き起こしたメモリ半導体の供給不足により、Xiaomi や Huawei といった中国メーカーは製造コストの上昇を価格に転嫁せざるを得なかった。一方、アップルは値上げをしなかった。
なぜ値上げせずに済んだのか。ここにアップルの構造的な強みがある。
まず、アップルは主要サプライヤーと長期契約を事前に締結し、価格高騰前にメモリを確保していた。Tim Cook CEOは直近の決算説明会で「あらゆる選択肢を検討する」と述べるにとどまったが、その言葉の裏には周到な調達戦略があった。次に、アップルは規模の経済を持つ。TSMC をはじめとするサプライヤーにとって、アップルは失うことのできない最大顧客だ。最優先の価格と供給を得られるのは、その規模ゆえである。そして、会社全体の高い利益率が短期的なコスト増を吸収するバッファーになっている。
前四半期(2025年12月期)の実績を見ると、その強さは数字で裏付けられる。Greater China(中国本土・香港・台湾)の売上は前年比 38%増 の 255億3000万ドル に達し、市場予測を 47億ドル 上回った。iPhoneとしては過去最高の四半期となった。
AI遅れという「弱点」の転換
もう一つの懸念材料だったAIについても、状況は変わった。
2024年から2025年にかけて、アップルのAI機能は競合に大きく水をあけられていた。機能のリリース遅延、主要人材の流出——「アップルはAI競争に乗り遅れた」という評価が定着しつつあった。
しかし2026年1月、Apple と Google は複数年にわたるパートナーシップを発表した。Google の Gemini AIとクラウドインフラがアップルのAI機能を支え、次世代Siriを刷新する。アップルが Google に支払う年間費用は約 10億ドル とされるが、AI開発に数千億ドルを投じる競合と比べれば、はるかに効率的な選択だ。
この提携は双方にメリットをもたらす。アップルはトップクラスのAIを自社開発コストなしに獲得し、Google はアップルデバイスでのサービス展開を強化できる。
関税という政治リスクをどう乗り越えたか
Donald Trump 大統領が昨年5月、海外製造のiPhoneに 25% の関税を課すと示唆したとき、市場はアップル株を売った。しかしCook CEOは政治的な地雷原を慎重に歩いた。
アップルは昨年8月、米国内製造への 1000億ドル の投資を発表。さらにその後4年間で 5000億ドル の投資計画も打ち出した。この「米国回帰」の姿勢が、政権との関係を修復した。関税リスクは完全には消えていないが、少なくとも最悪のシナリオは回避された。
日本市場への示唆
日本の投資家や企業にとって、このアップルの動きは他人事ではない。
ソニー や 村田製作所 などアップルのサプライチェーンに組み込まれた日本企業にとって、iPhoneの好調は直接的な恩恵につながる。一方、メモリ半導体の供給逼迫は キオクシア などの日本メーカーにとって価格交渉力の向上を意味するが、長期契約で価格を固定されたアップルとの取引では恩恵が限定的かもしれない。
より広い視点では、アップルが示した「AIは自前で作らなくていい」という戦略は、日本企業にとっても参考になる。AI開発に膨大なリソースを投じるより、優れたパートナーと組んで本業の強みを磨く——この発想は、人材不足と資本制約に悩む日本の中堅企業にも応用できるかもしれない。
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