ホルムズ海峡が閉じた世界で、日本は何を失うのか
米国とイスラエルがイランと開戦して8週間。ホルムズ海峡の封鎖、核物質の行方、弾薬備蓄の枯渇——この戦争が日本のエネルギー安全保障に突きつける、答えのない問いを考える。
日本が輸入する原油の約90%は、ホルムズ海峡を通過する。その海峡が、いま実質的に閉じている。
米国とイスラエルがイランとの戦争を開始してから8週間が経過しました。開戦の理由は今も矛盾したまま整理されておらず、停戦交渉はパキスタンでの会談が決裂し、出口は見えていません。トランプ大統領はSNSに「イランは誰が指導者かも分からない。カードはすべてこちらにある」と投稿しましたが、その言葉が示すのは自信なのか、それとも混乱の裏返しなのか——読み取るのは難しいところです。
「閉じた海峡」は、どれほど深刻なのか
ホルムズ海峡には通常、1日あたり2,000万バレルの石油が流れています。世界の海上石油貿易の約20%に相当する量です。代替ルートとして、サウジアラビアの東西パイプライン(イラン・イラク戦争時代に建設)が現在フル稼働していますが、その輸送能力は1日700万バレル。不足分は埋められません。
さらに、このパイプライン自体がイランのミサイルやドローンによって複数回攻撃を受けています。「最重要エネルギーインフラ」が、同時に「最も脆弱なターゲット」でもあるという逆説が、現在の中東情勢を象徴しています。
湾岸諸国は新たなパイプライン建設を検討していますが、完成までには数年単位の時間が必要です。今この危機には間に合いません。専門家たちは一致して言います——「ホルムズは他の海上チョークポイントとは違う。地理的な代替手段が、構造的に存在しない」と。
核物質と弾薬不足という、二重の不確実性
戦争の直接的な目的の一つとされた「核阻止」についても、状況は複雑です。イランは高濃縮ウランを約400キログラム保有しており、理論上は10〜11発の核兵器を製造できる量です。この物質は現在も地下施設に埋まったままとされており、トランプ大統領が繰り返し言及する「核の塵」がそれを指しています。
皮肉なのは、2度にわたる爆撃を経験したイランが、核保有への動機をむしろ強めた可能性があることです。「核を持たない国は攻撃される」という教訓を、この戦争自体が与えてしまったとすれば——それは開戦の論理を根底から揺さぶります。
米軍の弾薬備蓄についても深刻な問題が浮上しています。ニューヨーク・タイムズの報道によれば、この戦争で米軍はトマホークミサイルを1,000発以上消費しました。しかし年間生産量はわずか約100発。THAADミサイル迎撃システムも備蓄の約50%(200発相当)を使い果たし、年間調達数は11発に過ぎません。
この状況は、欧州や東アジアへの防衛リソースの転用を招いており、米国防総省は重要弾薬への追加投資として300億ドルを要求しています。日本の安全保障環境にとって、これは対岸の火事ではありません。
日本にとっての「見えないリスク」
エネルギー価格の上昇は、製造業のコスト構造を直撃します。トヨタや新日本製鐵(現日本製鉄)のような素材・製造業だけでなく、物流コストの上昇は食品・日用品の価格にも波及します。高齢化が進み、固定収入で生活する世帯が多い日本社会において、エネルギー起因のインフレは特に痛みが大きい。
サイバー攻撃の側面も見逃せません。親イラン系のハクティビストグループによる攻撃は増加傾向にあり、医療機器メーカーや交通インフラが標的になっています。日本の重要インフラ、特に医療・交通・電力系統が同様のリスクにさらされていないかどうか、点検が必要な局面です。
ただし、こうした攻撃は現時点では中国のVolt Typhoon・Salt Typhoonのような国家レベルのサイバー作戦とは規模が異なります。とはいえ、「今は大丈夫」という評価が明日も通用する保証はどこにもありません。
記者
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